・・・類型的でなくなる努力、淡泊さ、見栄え等を本当のものにする精進、性の上から来る色々の欠陥と不自由、それから脱出する苦悶――女性は芸術の種を実に沢山持ってはいるが、然しそれを植えつけ、花にすることの困難をもっています。其処に女性として永久的な苦・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・紅色帽の女が、何か云いながら、小さい見栄えのしない花束を二つずつ少女の両手に持たせた。そして、肩を押すようにして人通りの方に行かせた。私は、興味を持って、少女を見守った。僅な三四日のうちに、彼女はもう上手な花売りになったのだろうか。 雑・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
・・・困難し、打ち合わせなどするうちに、後の廊下で、一人の老人が丹念に人造真珠の頸飾や、古本や鼈甲細工等下手に見栄えなく並べ始めた。 一眠りしたら、大分元気が恢復した。福島屋の其部屋から、遙に港内が瞰下せた。塗り更えに碇泊して居るらしい大・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・品の好くて見栄えのしない法衣をまとった二人の若僧と、枯れた様な僧が一人寝台のすぐそばに居る。二人の若僧は、大変に奇麗な顔をして居る。幕が上ると、一つ長腰掛に三人一っかたまりになって居る。やがて第一の若僧が立って自分の肩のあたりを・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ 生意気な事を云うな、第一お前のなりを考えろ、小さくて、見栄えもしない茶色坊主で、フム何が出来る。俺を見ろ、大きいぞ、素晴らしく美くしいぞ、如何うだ此の光る金色を見て羨しくないかハハハ其にお前なんかは蟋蟀ほどの音も出せないじゃあないか、まあ・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
出典:青空文庫