・・・だから、私は今私を孤独と放浪へ追いやった私の感受性を見極めてこれを表現しようと思っている。そしてまた、私をそうさせた外界というものに対決しようと思う。これらは、文学でのみ出来る仕事だからだ。この点、私は幸福をすら感じている。 私がしかし・・・ 織田作之助 「私の文学」
・・・あの人が、ちっとも私に儲けさせてくれないと今夜見極めがついたから、そこは商人、素速く寝返りを打ったのだ。金。世の中は金だけだ。銀三十、なんと素晴らしい。いただきましょう。私は、けちな商人です。欲しくてならぬ。はい、有難う存じます。はい、はい・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・そう自分に見極めがついたときに、私は世評というものを再び大事にしようという気が起った。以前は、私にとって、世評は生活の全部であり、それゆえに、おっかなくて、ことさらにそれに無関心を装い、それへの反撥で、かえって私は猛りたち、人が右と言えば、・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・現在科学の極限を見極めずして徒らに奇説を弄するは白昼提灯を照らして街頭に叱呼する盲者の亜類である。方則を疑う前には先ずこれを熟知し適用の限界を窮めなければならぬ。その上で疑う事は止むを得ない。疑って活路を求めるには想像の翼を鼓するの外はない・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ たださえ、うねり、くねっている路だから、草がなくっても、どこへどう続いているか見極めのつくものではない。草をかぶればなおさらである。地に残る馬の足跡さえ、ようやく見つけたくらいだから、あとの始末は無論天に任せて、あるいていると云わねば・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・今日の社会事情と党の合法性とのなかで三・一五のほこるべき伝統は、私たち一人一人のなかにどんな具体的な今日の形でうけつがれているかということこそ見極められなければならない。三田村たちが非合法活動の方便に名をかりて、放蕩していたことはすべての文・・・ 宮本百合子 「共産党とモラル」
・・・ また時代というものに対しても、それから時代精神ということに就いても、本当にその時代に生存するには、前後及び終極の場所を見極めなくてはなりません。 時代というものは一つの大きな道です。私共は現在歩いているその道をよく見詰なければなら・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・ プロレタリア作家の文学に於ける任務は、その芸術の中で、今日やかましい大衆の問題を正当に理解し表現して行くこと、芸術に於ける民族的な特徴を広い偏見のない目で現実の中に見極めて形象化してゆくこと、及び芸術作品に描かれる人間性というものに就・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・の規定そのもののあいまいさを客観的に見極めて、民主主義文学運動全体を発展させてゆく評価のよりどころさえも見失わせる危険をもっているからである。 現実からかきはじめていることは価値のある本質だが、まだ「労働者として大事な事柄があまり書かれ・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
出典:青空文庫