・・・一方はただ不規則な乾燥したそして簡単な繊維の集合か、あるいは不規則な凹凸のある無晶体の塊であるのに、他方は複雑に、しかも規則正しい細胞の有機的な団体である。美しいものと、これに似た美しくないものとの差別には、いつでもこのような、人間普通の感・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・人によっては寝食の時間など大変規則正しい人もあるかも知れないが、原則から云えば楽に自由な骨休めをしたいと願いまたできるだけその呑気主義を実行するのが一般の習慣であります。すると彼らには明かに背馳した両面の生活がある事になる。業務についた自分・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ 風と海のざわめきとの間にも微かなキューキューいう規則正しい音が聞える。子供の時分ランプへ石油を注ぐ時使う金の道具があった。それを石油カンにさして細い針金を引っぱり石油をランプに汲み上げるときキューキュー一種の音を立てた。そっくりその通・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・自然の起伏を利用した規則正しい区画、東と西の大通りを縁どる並木、自動車路など、比較的落付いた趣があったので、知名な俳優や物持ちが別宅などを建てた。石川は、そのようにしてだんだん××町が開けて行く草分から町の入口――よく小さい別荘地の入口に見・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・ ゴーリキイは非常によく生活しはじめた。規則正しい読書。一日一日が新しい重要なものを齎した。ヴォルガの漁師イゾートの快い、感動的な素朴さは、ゴーリキイの心を動かした。イゾートは孤児で、土地を持たない百姓で、漁師の仕事でも孤立していた。イ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫