・・・ 最後にこの天理の自然、生命の法則という視点から、最初に立ちかえって、夫婦生活というものには無理が含まれていることも、英知をもって認めておかなくてはならぬ。この無理をどう扱うかということが生活のひとつの知恵である。 性の欲求、恋愛は・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・ 六 種々の視点への交感 教養としての倫理学研究は必ずしも一つの立場からの解決を必要としない。人間の倫理観のさまざまなる考え方、感じ方、解決のつけ方等をそれぞれの立場に身をおいて、感味して見るのもいい。それは人間とし・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・日本の文学感覚はまだもろく弱くて、文学といえば、人は理性の視点と水平なものとしてそれを感じないくせがある。戦争は、客観的な真実に対して素直である人間の理性をうちこわした。そしてわたしたちは長い間、客観的な文芸評論というものを持たされなかった・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・大づかみに、ぐんと人生を掴まず視点が揺れ、作家としての心が弱すぎた。為に、あれ丈文化的価値を裏に持った素材が、明かにこなされ切れなかった。 時に、彼の精神の或面に、私が、物足りなさによる侮蔑に近いものを感じたのは争われない。何か、この先・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・日本文学史全巻を担当される近藤忠義が、篤学、正確な視点をもたれる学者であることは、読者にとっての幸運であるし、同時に今日の文学の諸相のみを扱う私にとって一つの幸な安心である。〔一九三七年十月〕・・・ 宮本百合子 「意味深き今日の日本文学の相貌を」
・・・と云っておられるが、鴎外はこの佐橋の生涯の行きかた、それへの家康の忘れない戒心というものを、只、好みの人物という視点から扱ったのだろうか。 阿部彌一右衛門は、人間の性格的相剋を主従という封建の垣のうちに日夜まむきに犇めきとおして遂に、悲・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・少くとも、大衆が低い文化をもっている方が御し易いという視点にたって大衆の文化を導いてゆく大衆に対する理解と、その社会を構成している多数の人々がだんだんましな生活をやってゆける方向に導かれなければ全体として社会の発展や幸福はのぞみ難いものであ・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・の日本の現実と向い合ってこのテーマが出て来るからには、まさか、婦人の参政権に伴って、婦人の日常性の中で、公的生活と、私的生活とは、どう調和するか、或は、どう調和させて行くべきかというような、官僚じみた視点に立って出されたのではないであろう。・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・というのでなく、春大人は野に、都会にどう働くか、また子供はそれをどう助けるか問題をそういう視点から見てゆく。例えば春子供達は公園へ鳥の巣をかけにゆく。こういう社会的労作を現すのに或る子供は文章を書く、或る子供は作文が出来ないから絵で画く、ま・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・の柵がせまくるしくなって来ていることを語っているという感銘をうけた。視点を前方につけつつ、爪先は細心に足もとをふみわけようとされている。そこに、何となし無理を感じる。この微妙な無理は、報告の冒頭の「勤労者文学を民主主義文学のうちの一派とみる・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
出典:青空文庫