・・・ しかし、このごろは、おじいさんも目がわるくなって、ねらいがきかなくなりました。けれども、鳥たちは、弓を持って立っいるかがしを見ると、やはりおじいさんのような、怖ろしい人だと思ったのです。 親鳥は、子鳥にいいました。「あの、田の・・・ 小川未明 「からすとかがし」
・・・もっとも親鳥がこんな格好をして水中を泳ぎ回ることは、かつて見たことがない。この点ではかえって子供のほうが親よりも多芸であり有能であるとも言われる。親鳥だと、単にちょっと逆立ちをしてしっぽを天に朝しさえすればくちばしが自然に池底に届くのである・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・ 二十日ほど前に誕生した雛共が、一かたまりの茶黄色のフワフワになって、母親の足元にこびりつきながら、透き通るような声で、 チョチョチョチョチョ…… と絶間なく囀るのを、親鳥の クヮ……クウクウ……クヮ……という愛情に満ち・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・石田が掴まえようとすると、親鳥が鳴くので、石田は止めてしまう。 十一日は陰暦の七夕の前日である。「笹は好しか」と云って歩く。翌日になって見ると、五色の紙に物を書いて、竹の枝に結び附けたのが、家毎に立ててある。小倉にはまだ乞巧奠の風俗が、・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・ 巣の内の雛が親鳥の来るのを見つけたように、一列に并んだ娘達が桃色の脣を開いて歌ったことであろう。 その賑やかな声は今は聞えない。 しかしそれと違った賑やかさがこの間を領している。或る別様の生活がこの間を領している。それは声の無・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫