・・・私には多少、年寄りくさい実利主義的な傾向もあるのでしょうか、何の意味も無くまっぱだかになって角力をとり、投げられて大怪我をしたり、顔つきをかえて走って誰よりも誰が早いとか、どうせ百メートル二十秒の組でどんぐりの背ならべなのに、ばかばかしい、・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・成金に過ぎないようだけれども、とにかく、お金があって、東京に生れて、東京に育ち、道楽者、いや、少し不良じみて、骨組頑丈、顔が大きく眉が太く、自身で裸になって角力をとり、その力の強さがまた自慢らしく、何でも勝ちゃいいんだとうそぶき、「不快に思・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・メンコには、それぞれお角力さんの絵が画かれていて、東の横綱から前頭まで、また西の横綱から前頭まで、東西五枚ずつ、合計十枚、ある筈なんだが、一枚たりない。東の横綱がないんだ。どういうわけか、そこまでは僕も知らない。メンコ屋で、品切れになってい・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・田舎の草角力じゃねえんだぞ。」三木は、そう言い、雪を蹴ってぱっと助七の左腹にまわり、ぐゎんと一突き助七の顎に当てた。けれども、それは失敗であった。助七は三木のそのこぶしを素早くつかまえ、とっさに背負投、あざやかにきまった。三木の軽いからだは・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・その大きい絣の単衣を着ていると、私は角力の取的のようである。或いはまた、桃の花を一ぱいに染めてある寝巻の浴衣を着ていると、私は、ご難の楽屋で震えている新派の爺さん役者のようである。なっていないのである。けれども私は、与えられるものを黙って着・・・ 太宰治 「服装に就いて」
横綱、男女川が、私の家の近くに住んでいる。すなわち、共に府下三鷹町下連雀の住人なのである。私は角力に関しては少しも知るところが無いのだけれど、それでも横綱、男女川に就いては、時折ひとから噂を聞くのである。噂に拠れば、男女川・・・ 太宰治 「男女川と羽左衛門」
・・・性慾に就いての、あのどぎまぎした、いやらしくめんどうな、思いやりだか自惚れだか、気を引いてみるとか、ひとり角力とか、何が何やら十年一日どころか千年一日の如き陳腐な男女闘争をせずともよかった。私の見たところでは、そのひとは、やはり別れた夫を愛・・・ 太宰治 「メリイクリスマス」
二、三年前の、都新聞の正月版に、私は横綱男女ノ川に就いて書いたが、ことしは横綱双葉山に就いて少し書きましょう。 私は、角力に就いては何も知らぬのであるが、それでも、横綱というものには無関心でない。或る正直な人から聞いた・・・ 太宰治 「横綱」
・・・ 十四 食うか食われるか 亀と亀とが角力をとって負けたほうが仰向けに引っくり返される。引っくり返されたが最後もう永久に起き上がる事ができないので乾干しになるそうである。猛獣の争闘のように血を流し肉を破らないから一見残・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・たとえば世界各地方の過去から現在までに行なわれた類似の角力戯との比較でもしてみたら存外おもしろい結果が得られはしないかと思われる。二 少し唐突な話ではあるが、旧約聖書にたしかヤコブが天使と相撲を取った話がある。 その相手・・・ 寺田寅彦 「相撲」
出典:青空文庫