・・・少し変わった言い方をすると「俳諧の道は古代ギリシアの兵法にも通う」のである。これは一笑に値する。 六 昔、ラスキンが人から剽窃呼ばわりをされたのに答えて、独創ということも、結局はありったけの古いものからうまい汁を吸っ・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・また別の言い方をすれば西洋人は自然を征服しようとしているが、従来の日本人は自然に同化し、順応しようとして来たとも言われなくはない。きわめて卑近の一例を引いてみれば、庭園の作り方でも一方では幾何学的の設計図によって草木花卉を配列するのに、他方・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・そうして今急にあすこに欠員ができて困ってるというから、当分の約束で行くのです、じきまた帰ってきますと、あたかも未来が自分のかってになるようなものの言い方をした。自分はその場で重吉の「また帰ってきます」を「帰ってくるつもりです」に訂正してやり・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・わせてやろう、どうかして泣かせてやろうと擽ったり辛子を甞めさせるような故意の痕跡が見え透いたら定めし御聴き辛いことで、ために芸術品として見たる私の講演は大いに価値を損ずるごとく、いかに内容が良くても、言い方、取扱い方、書き方が、読者を釣って・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・はたして私のいう事が、あなた方に通じたかどうか、私には分りませんが、もし私の意味に不明のところがあるとすれば、それは私の言い方が足りないか、または悪いかだろうと思います。で私の云うところに、もし曖昧の点があるなら、好い加減にきめないで、私の・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・第一何が何だかさっぱり話が分らねえじゃねえか、人に話をもちかける時にゃ、相手が返事の出来るような物の言い方をするもんだ。喧嘩なら喧嘩、泥坊なら泥坊とな」「そりゃ分らねえ、分らねえ筈だ、未だ事が持ち上らねえからな、だが二分は持ってるだろう・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・と医者のような物の言い方をしてそれから、「一寸脈をお見せ。」と言うのでした。嘉助は右手を出しましたが、その時の又三郎のまじめくさった顔といったら、とうとう一郎は噴き出しました。けれども又三郎は知らん振りをして、だまって嘉助の脈を・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・というあの言い方がうなずけます。つまり才能的な技巧的な文章でなく、その人の持つ本質的な文章という意味です。 今のところいわゆる心境的なものばかり書いておりますが、或る時期がくると、戯曲など書いてみたくなりはしないかと思います。そういうの・・・ 宮本百合子 「十年の思い出」
・・・流言蜚語は、事実にないことを流布する一つの場合に当嵌められた言い方である。けれども、当時の日本の流言蜚語はその内容が違っていた。社会に対する正当の批評、希望もそれは取締られる「流言蜚語」の中に入れられた。そうしてうっかり買物のための行列に立・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・それは藤村としては珍しくはっきりした言い方であった。私はそれを聞いて、藤村の質素な住宅に対する執着が、なかなか根深いものであることを感じたのである。 藤村は着物でも食物でも独特な凝り方をしていて、その意味で相当ぜいたくであったと思う。飯・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫