・・・我輩が茲に鄙陋不品行の風と記したるは、必ずしも其人が実際に婬醜の罪を犯したる其罪を咎むるのみに非ず、平生の言行野鄙にして礼儀上に忌む可きを知らず、動もすれば談笑の間にもあられぬ言葉を漏らして、当人よりも却て聞く者をして赤面せしむるが如き、都・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・いわんや父母の言行ともに不正なるをや。いかでその子の人たるを望むべき。孤子よりもなお不幸というべし。 あるいは父母の性質正直にして、子を愛するを知れども、事物の方向を弁ぜず、一筋に我が欲するところの道に入らしめんとする者あり。こは罪なき・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・その策如何というに、朝夕主人の言行を厳重正格にして、家人を視ること他人の如くし、妻妾児孫をして己れに事うること奴隷の主君におけるが如くならしめ、あたかも一家の至尊には近づくべからず、その忌諱には触るべからず、俗にいえば殿様旦那様の御機嫌は損・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・内容は、武田信玄の家法、信玄一代記、家臣の言行録、山本勘助伝など雑多であるが、書名から連想せられやすい軍法のことは付録として取り扱われている程度で、大体は道徳訓である。この書がもしその標榜する通りに成立したものであるならば、『多胡辰敬家訓』・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・過激思想ももちろんその中に含まれているであろうが、過激思想を退治しようとしている為政者の言行といえどもまたその中に含まれていないのではない。利のために働かず、任務自身のための任務をつくして来た父から見ると、現在の政治家のように利のために動い・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・どの人物の言行にも、はっきりと片づいた動機づけをすることができない。それが作の世界全体に叙情的な色調を与えるゆえんなのであろう。 私はこの態度が作者として取るべき唯一の道だとは思っていない。ありのままを卒直に言おうとする態度の人、物を言・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫