・・・ けれど、さすがにおれは、おれのおかげで……と言っても、そんなに言い過ぎではあるまい――お千鶴をわがものにして、船場新聞の社長で収まり込んでいるお前を見ると、こいつ、良い気になりやがって、いっぺん失脚させてやったら、どんな顔をするだろう・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・追伸、この手紙に、僕は、言い足りない、或は言い過ぎた、ことの自己嫌悪を感じ、『ダス・ゲマイネ』のうちの言葉、『しどろもどろの看板』を感じる。太宰さん、これは、だめです。だいいち私に、異性の友人など、いつできたのだろう。全部ウソです。サインな・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・女が、戦争の勝敗の鍵を握っている、というのは言い過ぎであろうか。私は戦争の将来に就いて楽観している。 太宰治 「作家の手帖」
・・・インチキ新聞の記者になったり、暴力団の走り使いになったり、とにかく、ダメな男に出来る仕事の全部をやったと言っても決して言い過ぎではないかと存じます。そうして、そのダメな男は、いよいよただおのずからダメになるばかりで、ついに単身ボロをまとって・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・物足りないというのは言い過ぎであろうが、ほんとうに孤独な人間がある場合には同棲のねずみに不思議な親しみを感ずるような事も不可能ではないように思われたりした。 そのうちにどこからともなく、水のもれるようにねずみの侵入がはじまった。一度通路・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・留めにしては言いおおせ言い過ぎになってなんの余情もなくなり高圧的命令的独断的な命題になるのであろう。「にて」はこの場合総合の過程を読者に譲ることによって俳諧の要訣を悉しているであろう。 発句は完結することが必要であるが連俳の平句は完結し・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・と、平田は思いきッて帯を締めようとしたが、吉里が動かないのでその効がなかッた。「あッちじゃアもう支度をしてるのかい」「はい。西宮さんはちッともお臥らないで、こなたの……」と、言い過ぎようとして気がついたらしく、お梅は言葉を切ッた。・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫