・・・コノ計略ノ外ニハオ婆サンノ手カラ、逃ゲ出スミチハアリマセン。サヨウナラ」 遠藤は手紙を読み終ると、懐中時計を出して見ました。時計は十二時五分前です。「もうそろそろ時刻になるな、相手はあんな魔法使だし、御嬢さんはまだ子供だから、余・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・瀬古 全くおそいね。計略を敵に見すかされてむざむざと討ち死にしたかな。いったい計略計略って花田の奴はなにをする気なんだろう。沢本 おい、ともちゃん……乗るんだ。君は俺たちのモデルじゃないか。若様も描けよ。瀬古 うん描こう。・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ところで笊の目を潜らして、口から口へ哺めるのは――人間の方でもその計略だったのだから――いとも容易い。 だのに、餌を見せながら鳴き叫ばせつつ身を退いて飛廻るのは、あまり利口でない人間にも的確に解せられた。「あかちゃんや、あかちゃんや、う・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・叔父さんは、きっと何か小細工をして岩見先生に近づき、こんなお手紙を私の父にお書き下さるようにさまざま計略したのです。それに違いないのです。「叔父さんが、おたのみになったのよ。それにきまっているわ。叔父さんは、どうしてこんな、こわい事をなさる・・・ 太宰治 「千代女」
・・・先生の御胸中にどのような計略があるのかわかったものでない。私たちは縁先に立ち並び、無言でうやうやしくお辞儀をした。先生は一瞬けげんな顔をなさったようだが、私たちはそれにはかまわず、順々に縁側に躙り上り、さて私は部屋を見廻したが、風炉も釜も無・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・ 伯爵家では郵便が来る度に、跡継ぎの報告を受け取って、その旅行の滞なく捗って行くのを喜び、また自分達の計略の図に当ったのを喜んでいる。金は随分掛かる。しかし構わない。旅行は功を奏するに違いないからである。それに報告が存外立派に書ける。殊・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・或る地方の好色男子が常に不品行を働き、内君の苦情に堪えず、依て一策を案じて内君を耶蘇教会に入会せしめ、其目的は専ら女性の嫉妬心を和らげて自身の獣行を逞うせんとの計略なりしに、内君の苦情遂に止まずして失望したりとの奇談あり。天下の男子にして女・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・是れは自分の意なれども父上には語る可らず、何々は自分一人の独断なり母上には内証などの談は、毎度世間に聞く所なれども、斯くては事柄の善悪に拘わらず、既に骨肉の間に計略を運らすことにして、子女養育の道に非ざるなり。一 女子既に成長して家庭又・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 今日も、思いがけなく爆発したルイジョフの計略をインガは彼女独特のつよい統制力で整理したが、あとでドミトリーに云った。「――私はもうこのままじゃやって行けない! 一緒に働いていなければどっちでもいいけれど……。すっかり一緒になるか、・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ 而も、ブルジョア・地主は処女会や御用雑誌その他のあらゆる反動文化機関を総動員して、婦人大衆の文化を昔ながらの奴隷的な低さで止めておこうと狡い計略をめぐらしている。 何ぞというと「何だ! 女の癖に生意気な!」とやっつけ、封建的な屈従・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
出典:青空文庫