・・・ そのうち先生は教壇へ戻って二年生と四年生の算術の計算をして見せてまた新しい問題を出すと、今度は五年生の生徒の雑記帳へ書いた知らない字を黒板へ書いて、それにかなとわけをつけました。そして、「では嘉助さん、ここを読んで。」と言いました・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ 家へは帰らずジョバンニが町を三つ曲ってある大きな活版処にはいってすぐ入口の計算台に居ただぶだぶの白いシャツを着た人におじぎをしてジョバンニは靴をぬいで上りますと、突き当りの大きな扉をあけました。中にはまだ昼なのに電燈がついてたくさんの・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ことしの夏、雨といっしょに、硝酸アムモニヤをみなさんの沼ばたけや蔬菜ばたけに降らせますから、肥料を使うかたは、その分を入れて計算してください。分量は百メートル四方につき百二十キログラムです。雨もすこしは降らせます。旱魃の際には、・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・男の補助ではなく、男の代るものとして、婦人の労働力は計算されている。産業の合理化で男の労働者数は減少して行っている時になお、女の数は少しずつながら増大の線をたどって来ていることは女の労力が男に代り得て、しかもやすいという事実を雄弁に語ってい・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・供が首枷になっているという女の非常に憎悪の気持、子供を憎む気持が非常にあるということ、ある境遇には非常に負担に思って亭主のお蔭でこういう目に遭うと、そういう気持というものを、こういう事件の中では現実に計算してゆかなければ、公平を欠くというこ・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・いくら計算は計算でも水が出なけりゃ迷惑をするのは私達ばかりだ」 編物をしながら、上の娘の佐和子が、「計算て何なの」と訊いた。彼女は結婚して親たちとは別に暮していたから、この別荘に来たのもそれが二度目であった。「いいえね、理論・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
・・・ドイツは内治の上では、全く宗教を異にしている北と南とを擣きくるめて、人心の帰嚮を繰って行かなくてはならないし、外交の上でも、いかに勢力を失墜しているとは云え、まだ深い根柢を持っているロオマ法王を計算の外に置くことは出来ない。それだからドイツ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・が、事実は秋三や母のお霜がしたように、病人の乞食を食客に置く間の様々な不愉快さと、経費とを一瞬の間に計算した。 お霜は麦粉に茶を混ぜて安次に出した。「飯はちょっともないのやわ、こんなもんでも好けりゃ食べやいせ。」「そうかな、大き・・・ 横光利一 「南北」
・・・船体の計算に誤算があるので、おれはそれを直してみたのですが、おれの云うようにすれば、六ノット速力が迅くなる、そういくら云っても、誰も聞いてはくれないのですよ。あの船体の曲り具合のところです。そこの零の置きどころが間違っているのです。」 ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・そうしてこの二、三年の間にその大体の計算ができあがるのである。近代文化が多種多様な内容を持っていただけに、その計算の結果も定めて複雑なものだろう。 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫