・・・ 記紀にはないが、天手力男命が、引き明けた岩戸を取って投げたのが、虚空はるかにけし飛んでそれが現在の戸隠山になったという話も、やはり火山爆発という現象を夢にも知らない人の国には到底成立しにくい説話である。 誤解を防ぐために一言してお・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・また旧い記録例えば記紀のごときものの記事にあるような語源説が信用出来ないという事は既に学者の明白に認めているところである。それではほとんど唯一の有意義な方法と考えられるのは、現在日本人と隣接する民族の国語との関係を捜す事である。 こうい・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・ 記紀を文学と言っては当たらないかもしれないが、たとえばその中に現われた神話中に暗示された地球物理的現象の特異性についてはかつて述べたことがあるから略する。 おとぎ話や伝説口碑のようなものでも日本の自然とその対人交渉の特異性を暗示し・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
古い昔から日本民族に固有な、五と七との音数律による詩形の一系統がある。これが記紀の時代に現われて以来今日に至るまで短歌俳句はもちろん各種の歌謡民謡にまでも瀰漫している。この大きな体系の中に古今を通じて画然と一つの大きな線を・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
出典:青空文庫