・・・ひどい訥弁で懸命に説いて廻ってかえって皆に迷惑がられ、それでも、叱ったり、なだめたり、怒鳴ったりして、やっとの事で皆を引き連れ、エジプト脱出に成功したが、それから四十年間荒野にさまよい、脱出してモーゼについて来た百万の同胞は、モーゼに感謝す・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・肉体まずしく、訥弁である。失礼ながら、今官一君の姿を、ところどころに於いて思い浮べた。四書簡の中で、コリント後書が最も情熱的である。謂わば、ろれつが廻らない程に熱狂的である。しどろもどろである。訳文の古拙なせいばかりでも無いと思う。「わ・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・これを何と形容したら適当であるか、例えばここに饒舌な空談者と訥弁な思索者とを並べた時に後者から受ける印象が多少これに類しているかもしれない。そして技巧を誇る一流の作品は前者に相応するかもしれない。饒舌の雄弁固より悪くはないかもしれぬが、自分・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
出典:青空文庫