・・・ば聊かの用意だにあれば、日常の食事を茶の湯式にすることは雑作もないことである、只今日の日本家庭の如く食室がなくては困る、台所以外食堂というも仰山なれど、特に会食の為に作れる食堂だけは、どうしても各戸に設ける風習を起したい、それさえ出来れば跡・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・ けれども、それではいつまでも何も仕事が出来ないので、某所に秘密の仕事部屋を設ける事にしたのである。それはどこにあるのか、家の者にも知らせていない。毎朝、九時頃、私は家の者に弁当を作らせ、それを持ってその仕事部屋に出勤する。さすがにその・・・ 太宰治 「朝」
・・・悪い心境ということについては二つの仮説を設けることが出来ます。一つは原作者がこの小説を書くとき、たいへん疲れて居られたのではないかという臆測であります。人間は肉体の疲れたときには、人生に対して、また現実生活に対して、非常に不機嫌に、ぶあいそ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・を与えた。その感じはちょっと簡単に説明し難い種類のものである。それはつまりこれから以下に私が書こうとする事を煎じつめたような妙なものであった。 歳のうちのある特定の日を限って「節約デー」を設けるという事は、従来の多くの日には節約をしてい・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ さて、個人が頼りにならないとすれば、政府の法令によって永久的の対策を設けることは出来ないものかと考えてみる。ところが、国は永続しても政府の役人は百年の後には必ず入れ代わっている。役人が代わる間には法令も時々は代わる恐れがある。その法令・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・法医工文理農あらゆる学問の小売部を設けることである。 親類に民事上の訴訟問題でも起りかかった場合に、われわれはある具体的の法律上の知識の概要を得ておきたくなる。そういう時に、もし百貨店で買物をした節に十分か十五分の時間と二円か三円の金を・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・政府でも火災の軽減を講究する学術的機関を設ける必要のあることは前述のとおりであるが、民衆一般にももう少し火災に関する科学的知識を普及させるのが急務であろうと思われる。少なくもさし当たり小学校中等学校の教程中に適当なる形において火災学初歩のよ・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・芸産業軍事その他ありとあらゆる方面にわたる現実の正確な知識を与え、一般の輿望に基づいて各当局の手の回らぬところを研究し補助して国家社会のあらゆる機関の円滑な融合を計るがために、こういう特別な一大組織を設けるという事は、むしろ一国の政府自身と・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・無論マクベスの発端のように行数は短かくても、興味の上において全篇を貫く重みのあるものは論外であるが、平々凡々たるしかも十行内外の一段を設けるのは、話しの続きをあらわすためやむをえず挿入したのだと見え透くように思われる。換言すれば彼の戯曲のあ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・インガは、この三月内に托児所を設けることを決定し、それは着手されている。「私はあなたの自尊心のために、そこいら中の壁をこわしてはいられない。換気設置は次の四半期にします。もう決定していることですよ。」「俺をやっつけることをやめたくな・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
出典:青空文庫