・・・辞職の許可が出さえすれば、田宮が今使われている、ある名高い御用商人が、すぐに高給で抱えてくれる、――何でもそう云う話だった。「そうすりゃここにいなくとも好いから、どこか手広い家へ引っ越そうじゃないか?」 牧野はさも疲れたように、火鉢・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・ ある雨の晴れ上った朝、甲板士官だったA中尉はSと云う水兵に上陸を許可した。それは彼の小鼠を一匹、――しかも五体の整った小鼠を一匹とったためだった。人一倍体の逞しいSは珍しい日の光を浴びたまま、幅の狭い舷梯を下って行った。すると仲間の水・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・もとより開墾の初期に草分けとしてはいった数人の人は、今は一人も残ってはいませんが、その後毎年はいってくれた人々は、草分けの人々のあとを嗣いで、ついにこの土地の無料付与を道庁から許可されるまでの成績を挙げてくれられたのです。 この土地の開・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ 七十ばかりな主の翁は若き男女のために、自分がこの地を銃猟禁制地に許可を得し事柄や、池の歴史、さては鴨猟の事など話し聞かせた。その中には面白き話もあった。「水鳥のたぐいにも操というものがあると見えまして、雌なり雄なりが一つとられます・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・随分書いたが、情報局ではねられて許可にならなかったから、金はくれないんだ。余り催促すると、汚ないと思われるから黙っていたがね」「しかし、汚ないという評判だぜ。目下の者におごらせたりしたのじゃないかな」「えっ」 解せぬという顔だっ・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・ さあその条規も格別に、これとむつかしいことはなく、ただその閣令を出す必要は、その法令を規定したすべての条件を具えたものには、早速払い下げを許可するが、そうでないものをば一斉に書面を却下することとし、また相当の条件を具えた書面が幾通もあ・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・とついに文永十一年五月宗門弘通許可状を下し、日蓮をもって、「後代にも有り難き高僧、何の宗か之に比せん。日本国中に宗弘して妨げあるべからず」という護法の牒を与えた。 けれども日蓮は悦ばず、正法を立せずして、弘教を頌揚するのは阿附である。暁・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 何べんも間誤つき、何べんも調らべられ、ようやくのことで裁判所から許可証を貰い、刑務所へやってきた。――ところが、その入口で母親が急に道端にしゃがんで、顔を覆ってしまった。妹は吃驚した。何べんもゆすったが、母親はそのまゝにしていた。・・・ 小林多喜二 「争われない事実」
・・・また或る二百枚以上の新作の小説は出版不許可になった事もあった。しかし、私は小説を書く事は、やめなかった。もうこうなったら、最後までねばって小説を書いて行かなければ、ウソだと思った。それはもう理窟ではなかった。百姓の糞意地である。しかし、私は・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・今夜は、呑みあかしてもいい、と自身に許可を与えていた。 幸吉は女中を呼ぼうとして手を拍った。「君、そこに呼鈴があるじゃないか。」「あ、そうか。僕の家だったころには、こんなものなかった。」 ふたり、笑った。 その夜、私は、・・・ 太宰治 「新樹の言葉」
出典:青空文庫