・・・即ち科学の外に、芸術の存在を許容する所以だ。芸術は職能として、人生の複雑なる心理、環境と生活、社会と個人等を描くにある。体質に於て同じからざる人間は、同じからざる考えを抱く。また生活層によって、喜怒哀楽を異にする。それ等を、公平によって、書・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・プライドが、虫が、どうしてもそれを許容できない場合がある。堪忍ならぬのである。私は、犬をきらいなのである。早くからその狂暴の猛獣性を看破し、こころよからず思っているのである。たかだか日に一度や二度の残飯の投与にあずからんがために、友を売り、・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・いくら神さまが寛大だからといって、これだけは御許容なさるまい。 寝てもさめても、れいの「性的煩悶」ばかりしている故に、そんな「もののはずみ」だの「きっかけ」だのでわけもなく「恋愛関係」に突入する事が出来るのかも知れないが、しかし心がその・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・ こういう見方を進めて行くと、結局、いわゆる創作とは、つじつまを合わせるために多少の欺瞞を許容したこしらえものの事であり、随筆とは筆者の真実、少なくも主観的真実を記録したものであるというふうにも見られる。こういうふうに見ると、すでに前条・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・としての優劣の存在を許容するのもやむを得まい。高価な器械を持つ人と、粗製の器械をもつ人との相違と本質的に同じとも言われる。多くのすぐれた器械の結果が互いに一致し、そうしてその結果が全系統に適合する時に、その結果を「事実」と名づけることがいけ・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・ 可能性を許容するまでは科学的であるが、それだけでは科学者とは云われない。進んでその実証を求めるのが本当の科学者の道であろうが、それまでを元禄の西鶴に求めるのはいささか無理であろう。 ともかくも西鶴の知識慾の旺盛であった事は上述の諸・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ いわゆる精密科学においても吾人は偶然と名づくるものを許容す。これ一般に部分的の無知を意味す。すなわち条件をことごとく知らざる事を意味す。いかなる測定をなす際にも直接間接に定め得る数量の最後の桁には偶然が随伴す。多くの世人は精密科学の語・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 反応を要求しない親切ならば受けてもそれほど恐ろしくないが、田舎の人の質樸さと正直さはそのような投げやりな事は許容しない。それでこれらの人々から受けた親切は一々明細に記録しておいて、気長にそしてなしくずしにこれを償却しなければならないの・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・しかし以上の考察はこれら因子中の最も重要なるものに関したもので、これからの結論がだいたいにおいて事実とあまりに懸隔したものではないという事も許容されるだろうと信じる。 私はこのような考えを正す目的で、時々最寄りの停留所に立って、懐中時計・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・この仮説を許容するか、しないかで結果には非常な差を生じる。この仮説が真ならば、無駄をしないようにするには結局有益なことを一つもしないというより外はなくなる。また有益なことをするためには結局なるべく無駄を沢山にするようにしなければならないとい・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
出典:青空文庫