・・・ 博文館の雑誌経営が成功して、雑誌も亦ビジネスとして立派に存立し得る事が証拠立てられてから、有らゆる出版業者は皆奮って雑誌を発行した。文人が活動し得る舞台が著るしく多くなった。文人は最早非常なる精力を捧ぐる著述に頼らなくても習作的原稿、・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・男もこれほど女の赤心が眼の前へ証拠立てられる以上、普通の軽薄な売女同様の観をなして、女の貞節を今まで疑っていたのを後悔したものと見えて、再びもとの夫婦に立ち帰って、病妻の看護に身を委ねたというのがモーパサンの小説の筋ですが、男の疑も好い加減・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・当初の計画通りを実行してそうして旨く見込に違わない成績をふり返って見て、なるほどと始めて合点して納得の行ったような顔をするのは、いくら綺麗に形だけが纏っていても実際の経験がそれを証拠立ててくれない以上は大いに心細いのであります。つまり外形と・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・けれどもとにかく軍人がインデペンデントであるということはあれで証拠立てられている。西洋に対して日本が芸術においてもインデペンデントであるという事ももう証拠立てられても可い時である。日本は動もすれば恐露病に罹ったり、支那のような国までも恐れて・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・水というものが、どんなに変化することが出来、虹となってかかることが、一つの石のあるために証拠立てられる。この本が複雑な激しい希望と困難とのまざり合って流れている今日の生活の中にあって、この石のように、読む人の一人一人の人生はどんなに価値のあ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『幸福について』)」
・・・裁判所で証拠立てをして拵えた判決文を事実だと云って、それを本当だとするのが、普通の意味の本当だろう。ところが、そう云う意味の事実と云うものは存在しない。事実だと云っても、人間の写象を通過した以上は、物質論者のランゲの謂う湊合が加わっている。・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・身に着いたのは浅紺に濃茶の入ッた具足で威もよほど古びて見えるが、ところどころに残ッている血の痕が持主の軍馴れたのを証拠立てている。兜はなくて乱髪が藁で括られ、大刀疵がいくらもある臘色の業物が腰へ反り返ッている。手甲は見馴れぬ手甲だが、実は濃・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫