・・・僕の蛇笏に対する評価はこの時も亦ネガティイフだった。殊に細君のヒステリイか何かを材にした句などを好まなかった。こう云う事件は句にするよりも、小説にすれば好いのにとも思った。爾来僕は久しい間、ずっと蛇笏を忘れていた。 その内に僕も作句をは・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・ 六、おのれの作品の評価に謙遜なる事。大抵の作品は「ありゃ駄目だよ」と云う。 七、月評に忠実なる事。 八、半可な通人ぶりや利いた風の贅沢をせざる事。 九、容貌風采共卑しからざる事。 十、精進の志に乏しからざる事。大作をや・・・ 芥川竜之介 「彼の長所十八」
・・・無論、仲間同志のほめ合にしても、やっぱり評価表の事実を、変える訳には行きません。まあ精々、骨を折って、実際価値があるようなものを書くのですな。」「しかし、その測定器の評価が、確かだと云う事は、どうしてきめるのです。」「それは、傑作を・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・ 情実と利害関係の複雑な文化機関と、その文壇的の声望は、以上の如き芸術に、決して正しい評価を下すものでありません。常にその時代の文壇は、享楽階級の好悪によって左右さるべき性質のものであるからです。 芸術が、他のすべての自然科学の場合・・・ 小川未明 「自分を鞭打つ感激より」
・・・て、彼の近代人としての感受性の可能性を志賀直哉の眼の中にノスタルジアしたことは、その限りに於ては正しかったが、しかし、この志賀直哉論を小林秀雄の可能性のノスタルジアを見ずに、直ちに志賀直哉文学の絶対的評価として受けとったところに、文壇の早合・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・けれども、相手の花田八段はさすがにそんな悪口をたしなめて、自身勝ちながら坂田の棋力を高く評価した。また、一四歩突きについても、木村八段のように「その手を見た途端に自分の気持が落ち着いた」などと、暗に勝つ自信をほのめかした感想は言わず、「坂田・・・ 織田作之助 「勝負師」
・・・したがってただそれだけで、夫の人格を評価して、夫婦生活にひざまずいたりするのは浅慮である。 天然と歴史とは往々にして偉大なる男性に、超家庭的の性格と使命とを与える。すべての男性が家庭的で、妻子のことのみかかわって、日曜には家族的のトリッ・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・したがってかくの如き人格が道徳的評価を受けるのである。 しかしかかる評価とは、かく煙を吐く浅間山は雄大であるとか、すだく虫は可憐であるとかいう評価と同じく、自然的事実に対する評価であって、その責任を問う道徳的評価の名に価するであろうか。・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・相手をよく評価せずに偶像崇拝に陥る。相手の分不相応な大きな注文を盛りあげて、自分でひとり幻滅する。相手の異性をよく見わけることは何より肝要なことだ。恋してからは目が狂いがちだから、恋するまでに自分の発情を慎しんで知性を働らかせなければならぬ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・という題にて、鴎外の作品、なかなか正当に評価せられざるに反し、俗中の俗、夏目漱石の全集、いよいよ華やかなる世情、涙出ずるほどくやしく思い、参考のノートや本を調べたけれども、「僕輩」の気折れしてものにならず。この夜、一睡もせず。朝になり、よう・・・ 太宰治 「もの思う葦」
出典:青空文庫