・・・私が一般に西洋映画に対して常に日本映画を低く評価するような傾向を自覚するのは畢竟私もまたこのようなやぶにらみの眼病にかかっているせいであるかとも考えてみる。 しかし、思うに今世界的にいわゆる名監督と呼ばるる第一人者たちは、いずれも皆群を・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ それだのに、純粋な線条の踊りは一般観客にはさっぱり評価されないようである一方でレヴューのほうは大衆の喝采を博するのが通例であるらしい。ここに映画製作者の前に提出された一つの大きな問題があると思われる。 あまりに抽象的で特殊な少数の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・もっともこれは映像の質量と距離とをほぼ正当に評価し想定するためにそうなるのであって、もしも前述の崩壊する煙突が、実物でなくて小さな雛形であると信ずることができるとすれば現象は不自然さを失ってしまうはずである。起重機のつり上げている鉄塊が実は・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・の一つの相を表現したものである以上、人の句を鑑賞する場合における評価が作者と鑑賞者との郷土や年齢やの函数で与えられるのは当然であろう。これは何も俳句に限ったことでもないと思われる。「おとろえや歯に食いあてし海苔の砂」などという句でも若いころ・・・ 寺田寅彦 「思い出草」
・・・ しかし、その当時に、当時には御馳走と思われた牛鍋や安洋食を腹いっぱいに喰って、それであとで風邪を引いたというはっきりした経験はついぞ持合わせず、従ってM君の所説は一向に無意味なただの悪まれ口としか評価されないで閑却されていたのである。・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・動物学者は白い烏を見た以上は烏は黒いものなりとの定義を変ずる必要を認めねばならぬごとく、批評家もまた古来の法則に遵わざる、また過去の作中より挙げ尽したる評価的条項以外の条項を有する文辞に接せぬとは限らぬ。これに接したるとき、白い烏を烏と認む・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ もし文芸院がより多く卑近なる目的を以て、文芸の産出家に対して、個々別々の便宜を、その作物上の評価に応じて、零細にかつ随時に与えようとするならば、余はその効果の比較的少きに反して、その弊害の思ったよりも大いなる事を断言するに憚らぬもので・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・社会が倫理的動物としての吾人に対して人間らしい卑近な徳義を要求してそれで我慢するようになって、完全とか至極とか云う理想上の要求を漸次に撤回してしまった結果はどうなるかと云うと、まず従前から存在していた評価率が自然の間に違ってこなければならな・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・自分が世間から受ける待遇や、一般から蒙る評価には、案外な点もあるいはあるといわれるかも知れないが、自分が如何にしてこんな人間に出来上ったかという径路や因果や変化については、善悪にかかわらず不思議を挟む余地がちっともない。ただかくの如く生れ、・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・しかるに文部省の内意を取次いでくれた教頭が、それは先方の見込みなのだから、君の方で自分を評価する必要はない、ともかくも行った方が好かろうと云うので、私も絶対に反抗する理由もないから、命令通り英国へ行きました。しかし果せるかな何もする事がない・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
出典:青空文庫