・・・イイダコ釣りは面白いので、私はヒマを見つけるとときどき試みるが、一日に六十匹も引きあげたことがある。 役者の佐々木孝丸さんは、ペルリ上陸記念碑のある横須賀の久里浜に住んでいるが、すこぶる釣り好きで、よく私を誘った。このごろはどちらも忙し・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・の誠意を非難するには非ざれども、女大学の著述以後二百余年の今日に於て、人智の進歩、時勢の変遷を視察し、既往の事実に徴して将来の幸福を求めんとするときは、如何にしても古人の説に服従するを得ず、敢て反対を試みる所以なり。抑も在昔封建門閥の時代に・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・もし、今の闇で命をつないでいるような暮しを、日本じゅうの少女たちが、悲しがり、立腹し、ちゃんとした解決を求めて物を云いはじめたら、其は、すべての人々を一層本気に考えさせ、工夫させ、よいと思う方法を試みる勇気を起させることだろうと思います。・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・ 段々民間にもその方法を試みると語られていて、その方法がひろく行われれば行われるほど家庭はどうやってゆくのだろうという思いがひろがるのではなかろうかと思った。民間のいろいろの業者・経営者にとって、月給はともかく現金では半額だけ手わたせば・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・に反抗し、自分の独立と自由とを主張しようとして、女性だけに可能な出産という行為でそれを奪いとろうと試みる。ジュヌヴィエヴはいかにも十六歳の少女らしく、鋭いが未熟で現実的でない思惟と情熱とで、自分に子供を与えてくれるようにと、科学の教師である・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・ 種々の条件が加わっても、やはりそこはそことして何か訴える演劇をもとうと試みる情熱がなかった。しかもそんな芝居でも、見物は満員である。俳優たちは、何となしそんな関係におかれている自分の舞台にうすら寒いものを感じているだろうとも思われた。・・・ 宮本百合子 「“健全性”の難しさ」
・・・しかしたやすく近づこうと試みるものがない。まれに物ずきに近づこうと試みるものがあっても、しばらくするうちに根気が続かなくなって遠ざかってしまう。まだ猪之助といって、前髪のあったとき、たびたび話をしかけたり、何かに手を借してやったりしていた年・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・蝉が声を試みるのである。 白い雲が散ってしまって、日盛りになったら、山をゆする声になるのであろう。 この時只一人坂道を登って来て、七人の娘の背後に立っている娘がある。 第八の娘である。 背は七人の娘より高い。十四五になってい・・・ 森鴎外 「杯」
源氏物語を現代の口語に訳する必要がありましょうか。この問題を解決しようと試みることは、この本の序文として適当だろうかと思われます。 単に必要があるかと申しますのは、精しくいえば、時代がそれを要求するかということになりま・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
・・・主として画題選択の斬新であるが、時には珍しい形象の取り合わせ、あるいは人の意表にいづるごとき新しい図取りを試みる。しかしこれらの画家を動かしているものは、岡倉覚三氏の時代の自然観、芸術観であって、その手腕の自由巧妙なるにかかわらず、我らの心・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫