・・・彼は国漢文中等教員検定試験の勉強中であった。それで、お君は、「あわれ逢瀬の首尾あらば、それを二人が最期日と、名残りの文のいいかわし、毎夜毎夜の死覚悟、魂抜けてとぼとぼうかうか身をこがす……」 と、「紙治」のサワリなどをうたった。下手・・・ 織田作之助 「雨」
・・・どっちにしてもお前の入学試験時分までには帰るから、どこにおっても意気地なくかかって泣いたりするな」と、私はFに最後の訓戒を垂れた。 すっかり暗くなったところで弟は行李を担いで、Fとの二人が茶店の娘に送られて出て行ったが、高い石段を下り建・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・ 弟達が来ますと、二人に両方の手を握らせて、暫くは如何にも安心したかの様子でしたが、末弟は試験の結果が気になって落ちつかず、次弟は商用が忙しくて何れも程なく帰ってしまいました。 二十日の暮れて間もない時分、カツカツとあわただしい下駄・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・校長教員を始め何百の生徒の人気は、温順しい志村に傾いている、志村は色の白い柔和な、女にして見たいような少年、自分は美少年ではあったが、乱暴な傲慢な、喧嘩好きの少年、おまけに何時も級の一番を占めていて、試験の時は必らず最優等の成績を得る処から・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・他人の家の火災と、自分の入学試験の受験とがぶつかったとき、いずれをさきにすべきか、何によって決定したらいいか。この形の選択がわれわれの実際生活のすべてにわたってせまっているのである。これは直観主義でも決められない。 リップスによれば、こ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 曹長は、それから、彼の兄弟のことや、内地へ帰ってからどういう仕事をしようと思っているか、P村ではどういう知人があるか、自分は普通文官試験を受けようと思っているとか、一時間ばかりとりとめもない話をした。曹長は現役志願をして入営した。曹長・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・其頃は小学校は上等が一級から八級まで、下等が一級から八級までという事に分たれて居ましたが、私は試験をされた訳では無いが最初に下等七級へ編入された。ところが同級の生徒と比べて非常に何も彼も出来ないので、とうとう八級へ落されて仕舞った。下等八級・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・私は、その翌年の春、大学を卒業する筈になっていたのだが、試験には一つも出席せず、卒業論文も提出せず、てんで卒業の見込みの無い事が、田舎の長兄に見破られ、神田の、兄の定宿に呼びつけられて、それこそ目の玉が飛び出る程に激しく叱られていたのである・・・ 太宰治 「一燈」
・・・ そうか、試験休みか春休みか」と我知らず口に出して言って、五、六間無意識にてくてくと歩いていくと、ふと黒い柔かい美しい春の土に、ちょうど金屏風に銀で画いた松の葉のようにそっと落ちているアルミニウムの留針。 娘のだ! いきなり、振り返・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・ この理想が実現せられるとして、教案を立てる際に材料と分布をどうするかという問に対しては、具体的の話は後日に譲ると云って、話頭を試験制度の問題に転じている。「要は時間の経済にある。それには無駄な生徒いじめの訓練的な事は一切廃するがい・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
出典:青空文庫