・・・ その下を狐が詩集をもって遊びに行ったのでした。仕立おろしの紺の背広を着、赤革の靴もキッキッと鳴ったのです。「実にしずかな晩ですねえ。」「ええ。」樺の木はそっと返事をしました。「蝎ぼしが向うを這っていますね。あの赤い大きなや・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・などは「詩集と結婚と出産と」「父となる日」「わが家の正月」などとともに、決して、古い意味での世界の主の感情ではないのだから。「わが家の正月」「詩集と結婚と出産と」などには、実にあったかくて、清潔で、狎れ合ってしまわない人間同士の、親と子と、・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
・・・三冊の詩集がつくられた。はじめの二冊は「愛の書」、あとの一冊は「歌の書」、そして三冊ともその年の十二月に、多分はクリスマスの贈物として愛するイエニーに送られた。このほか一八三九年には、イエニーのために「民謡集成」という民謡集をこしらえた。若・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ 昔、北原白秋が羊皮にサファイアやルビーをちりばめた豪華版の詩集を出す広告をしたことがあった。実現したかしなかったのか知らない。白秋のロマンティシズムに、九州柳川の日が照って、桐の花がちりかかっていたように、その頃の、きれいな本をつくり・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・エセーニンの詩にはコロリと参っている。エセーニンの詩集は村にいる本だ。素敵なもんだと「母への手紙」というエセーニンの詩がよまれた時に衆議一決している。だが、果して詩人エセーニンは、このコンムーナの一同が武器を揃えて、パンフョーロフが正しく描・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・帰って、その晩はストーヴの前でいろいろ夜ふけまで二人の話せるあらゆる話題について話し、少しくたびれると、いねちゃんがタバコをのみながら詩集『月下の一群』を棚からおろしてよんだりし、又いろいろ話した。 今日になれば去年になったが、夏四日ば・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 第一書房から竹内てるよさんの『静かなる愛』という詩集が出ている。 幼いときから苦しい境遇に育って、永い闘病生活のうちに詩をつくって来た女詩人であり、統一された境地を今の心にうちたてている詩人である。 同じ題で六月の『新女苑』に・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・西洋の地獄の插画のついたのがあったり、何か機械の図解のついたのがあったり、詩集があったりした。文学の本は少くて、政治や経済の明治初期の本があった。父方の関心はそういうところにあったと思える。西洋の地獄の插画のある本や詩集などは、省吾さんとい・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
・・・桐薪唐詩紀事 玉泉子六一詩話 南部新書滄浪詩話 握蘭集彦周詩話 金筌集三山老人語録 漢南真稿雪浪斎日記 温飛卿詩集・・・ 森鴎外 「魚玄機」
・・・漱石は立って書斎から李白の詩集を取って来て、しきりに繰っていたが、なるほど君のいう通りだ、人静月同眠だね、と言った。樗陰は、そうでしょう、そうでなくちゃならない、月同照は変ですよ、と得意だったが、漱石は、しかしそうなるとまことに平凡だね、と・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫