・・・という意味のことを云って寄越されたので、その手紙を後に滝田さんに見せると、之はひどいと云って夏目先生に詰問したので、先生が滝田さんに詫びの手紙を出された話があります。当時夏目先生の面会日は木曜だったので、私達は昼遊びに行きましたが、滝田さん・・・ 芥川竜之介 「夏目先生と滝田さん」
・・・と、急にまた動悸が高まるような気がしましたから、「失敗したんじゃないかって? 君は一体お敏に何をやらせようとしたんだ。」と、詰問するごとく尋ねました。けれども泰さんはその問には答えないで、「もっともこうなるのも僕の罪かも知れないんだ。僕がお・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・それなら、なぜクロポトキンやマルクスや露国の革命をまで引き合いに出して物をいうかとの詰問もあろうけれども、それは僕自身の気持ちからいうならば、前掲の人人または事件をああ考えねばならなくなるという例を示したにすぎない。気持ちで議論をするのはけ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ と、新ちゃんは詰問した。かつて唇を三回盗まれたことがあり、体のことがなかったのは、たんに機会の問題だったと今さら口惜しがっている新ちゃんの肚の中などわからぬお君は、そんな詰問は腑に落ちかねたが、さすがに日焼けした顔に泛んでいるしょんぼ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・興ざめた顔で、蝶子の詰問を大人しく聴いた。なお女中の話では、柳吉はひそかに娘を湯崎へ呼び寄せて、千畳敷や三段壁など名所を見物したとのことだった。その父性愛も柳吉の年になってみるともっともだったが、裏切られた気がした。かねがね娘を引きとって三・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・とは、余程呪われた者の運命に違いないという気が強くされて―― 彼は、子供等が庭へ出て居り、また丁度細君も使いに行ってて留守だったのを幸い、台所へ行って擂木で出来るだけその凹みを直し、妻に見つかって詰問されるのを避ける準備をして置かねばな・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・酒を飲んでいた私は、この突然な詰問に会って、おおいに狼狽した。「あれは、けっして君のことを書いたというわけではないじゃないか。あんな事実なんか、全然君にありゃしないじゃないか。君はKに僕と絶交すると言ったそうだが、なぜそんなに君が怒った・・・ 葛西善蔵 「遊動円木」
・・・と加藤号外君、せきこんで詰問に及んだ。「号外から縁がなくなって、君ががっかりしておるところが君の君たるところじゃアないか。」「大いにしかりだ」と自分は賛成する。「それじゃア諸君は少しもがっかりしないのか」と加藤君大いに不平なり。・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・ と立ちどまって、詰問した。否、との応えを得て、こんどはのろのろ歩きはじめた。死んでしまったほうが安楽であるという確信を得たならば、ためらわずに、死ね! なんのとがもないのに、わがいのちを断って見せるよりほかには意志表示の仕方を知らぬ怜悧な・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ アナタノ小説、友人ヨリ雑誌借リテ読ミマシタガ、アレハ、ツマリ、一言モッテ覆エバ、ドンナコトニナルカ、ト詰問サレルコト再三、ソノタビゴトニ悲シク、一言デ言エルコトナラ、一言デ言イマス、アレハアレダケノモノデ、ホカニ言イ様ゴザイマセヌ、以・・・ 太宰治 「走ラヌ名馬」
出典:青空文庫