・・・(ここまで話すと、電車が品川へ来た。自分は新橋で下りる体である。それを知っている友だちは、語り完らない事を虞 それから、写真はいろいろな事があって、結局その男が巡査につかまる所でおしまいになるんだそうだ。何をしてつかまるんだか、お徳・・・ 芥川竜之介 「片恋」
・・・ だって、今だから話すんだけれど、その蚊帳なしで、蚊が居るッていう始末でしょう。無いものは活計の代という訳で。 内で熟としていたんじゃ、たとい曳くにしろ、車も曳けない理窟ですから、何がなし、戸外へ出て、足駄穿きで駈け歩行くしだらだけ・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・ その間で嫂が僅に話す所を聞けば、市川の某という家で先の男の気性も知れているに財産も戸村の家に倍以上であり、それで向うから民子を強っての所望、媒妁人というのも戸村が世話になる人である、是非やりたい是非往ってくれということになった。民子は・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・それで夏目さんと話す位い気持の好いことはなかった。夏目さんは大抵一時間の談話中には二回か三回、実に好い上品なユーモアを混える人で、それも全く無意識に迸り出るといったような所があった。 また夏目さんは他人に頼まれたことを好く快諾する人だっ・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・その話は長いけれどもここにあなたがたに話すことを許していただきたい。カーライルがこの書を著わすのは彼にとってはほとんど一生涯の仕事であった。チョット『革命史』を見まするならば、このくらいの本は誰にでも書けるだろうと思うほどの本であります。け・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ お姫さまは、待っておられたので、そのものが帰るとすぐに自分の前にお召しなされて、聞いたことや見たことを、すっかり話すようにといわれました。「私は、つい皇子を目のあたりに見られませんでした。しかし、たしかに聞いてまいりました。皇子は・・・ 小川未明 「赤い姫と黒い皇子」
・・・ 人にこのことを話すと、「八月二十日にいいことがあるというのか。ふーむ。八月二十日といえば勝札の抽籤の発表のある日じゃないか」 しかし、そう言いながら、誰もかれも何となく「八月二十日を待とう」という気持になっていた。無理もない。・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・だから僕は今しばらくその海の由来を君に話すことにしよう。そこは僕達の家がほんのしばらくの間だけれども住んでいた土地なんだ。 そこは有名な暗礁や島の多いところだ。その島の小学児童は毎朝勢揃いして一艘の船を仕立てて港の小学校へやって来る。帰・・・ 梶井基次郎 「海 断片」
・・・と、人夫は見たように話す。「なにしろ哀れむべきやつサ。」と巡査が言って何心なく土手を見ると、見物人がふえて学生らしいのもまじっていた。 この時赤羽行きの汽車が朝日をまともに車窓に受けて威勢よく走って来た。そして火夫も運転手も乗客も、・・・ 国木田独歩 「窮死」
・・・ 杜氏は、話す調子だけは割合おだやかだった。彼は、「お主の賃銀もその話が片づいてから渡すものは渡すそうじゃ、まあ、それまでざいへ去んで休んどって貰えやえゝ。」と云った。「そいつは併し困るんだがなあ。賃銀だけは貰って行かなくちゃ!・・・ 黒島伝治 「豚群」
出典:青空文庫