・・・帰って、その晩はストーヴの前でいろいろ夜ふけまで二人の話せるあらゆる話題について話し、少しくたびれると、いねちゃんがタバコをのみながら詩集『月下の一群』を棚からおろしてよんだりし、又いろいろ話した。 今日になれば去年になったが、夏四日ば・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・真柄さんは獄中の事実を書く時、生来の陽気性と親ゆずりの鈍感性のため、獄中生活が一生を左右する程のききめをもたなかったから、さも親しそうに監獄の生活について話せると云っておられるが、全文に微妙な神経質さ、嫌悪、その反動としての皮肉的語気が仄見・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・弦に張られた島 日本が、敏感に西からの風、東からの風に震え反応しつつ、猶断然ユニークなソーユ○人間がこの世に生きる人としての価値は、その人にどんなことでも――恐ろしいこと、けたはずれなことでも話せるかどうかという点にある。「尤も」以・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・そのときひろ子の胸に湧いた云いつくせない感情は、口で話せるものだろうか。 ひろ子は立ちあがって、書いている重吉の肩へ手をやった。「――どうした」「小説をかかして」 ひろ子は重吉のあいている方の手をとった。「ね、小説がかけ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・そういう風な素直なあるがままの人間として、熱心に真面目に生きて行く人間としての文学、そういう情熱の溢れるものとしての文学、お互いがお互いの言葉として話せる文学、そういうものを求めているわけです。ただ文学は一つの技術が要りますから、いきなり誰・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・ そういう人は世間でいう文学の話せる人の、タイプである。今日の世界民主婦人連盟について知っており、ソヴェト同盟や中国の新しい社会で婦人がどう生活しはじめているかということについても、相当に知っているだろう。日本をこめる世界の帝国主義が、・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・英語ばかり話せるようになったって、大事なことはなんだってアイ・ドント・ノー、アイ・ドント・ノーではね。しかしそういう社会は、天皇制をくいものにして、旧権力を温存させようとしているものには決してつくれません。人民がつくる力をもっているだけです・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・公報で戦死したものとされた夫が帰ってみれば、妻は弟と結婚していた、というような実例は、まだまだひとにも話せる悲劇の部類であった。 疎開、転入制限、これらも大幅に日本の家庭を破壊した。経済事情の極度の不安定。これも今日の離婚の動機をなす最・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・応対は非常に柔らかで、気おきなく話せるように仕向けられた。秋の日は暮れが早いので、やがて辞し去ろうとすると、「まあ飯を食ってゆっくりしていたまえ、その内いつもの連中がやってくるだろう」と言ってひきとめられた。膳が出ると、夫人が漱石と私との間・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫