・・・ 戸沢は博士に問われる通り、ここ一週間ばかりのお律の容態を可成詳細に説明した。慎太郎には薄い博士の眉が、戸沢の処方を聞いた時、かすかに動いたのが気がかりだった。 しかしその話が一段落つくと、谷村博士は大様に、二三度独り頷いて見せた。・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・しかれどもトック君は不幸にも詳細に答うることをなさず、かえってトック君自身に関する種々のゴシップを質問したり。 問 予の死後の名声は如何? 答 ある批評家は「群小詩人のひとり」と言えり。 問 彼は予が詩集を贈らざりしに怨恨を含め・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・なお巴に関して、詳細を知りたい人は、新村博士の巴に関する論文を一読するが好い。二 提宇子のいわく、DS は「すひりつあるすすたんしや」とて、無色無形の実体にて、間に髪を入れず、天地いつくにも充満して在ませども、別して威光を顕・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・そして大友は種々と詳細い談話をして、自分がどれほどその女から侮辱せられたかを語った。そして彼自身も今更想い起して感慨に堪えぬ様であった。「さぞ憎らしかッたでしょうねエ、」「否、憎らしいとその時思うことが出来るなら左まで苦しくは無いの・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
一 何公爵の旧領地とばかり、詳細い事は言われない、侯伯子男の新華族を沢山出しただけに、同じく維新の風雲に会しながらも妙な機から雲梯をすべり落ちて、遂には男爵どころか県知事の椅子一にも有つき得ず、空しく・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・そのあたりの地理は詳細には分らなかった。 だが、そこの鉄橋は始終破壊された。枕木はいつの間にか引きぬかれていた。不意に軍用列車が襲撃された。 電線は切断されづめだった。 HとSとの連絡は始終断たれていた。 そこにパルチザンの・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・のもっと詳細な検討、細田民樹の「ある兵卒の記録」について、この三つの作品は、いずれも大正年間になって出されたものであるが、明治以後、戦争文学が如何に発展したかを見るために一応触れて置きたいと思っていた。しかし、予定の紙数の制限に近づいたので・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・見聞した事は詳細に書き留めて、領事の証明書を添えて、親戚に報告しなくてはならない。 ポルジイは会議の結果に服従しなくてはならない。腹を立てて、色々な物を従卒に打ち附けてこわした。ドリスを棄てようか。それは「絶待」に不可能である。少し用心・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・そうするとまずぼんやりとおおよその見当がついて来るが、いくら詳細な案内記を丁寧に読んでみたところで、結局ほんとうのところは自分で行って見なければわかるはずはない。もしもそれがわかるようならば、うちで書物だけ読んでいればわざわざ出かける必要は・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ 東京附近の自動車道路の詳細な地図はないかと思ってこの間中探したが見付からなかった。鳥瞰図式の粗雑なものはあったが、図がはなはだしく歪められているので正確な距離や方角の見当がつかないし、またどのくらい信用出来るかも不明である。鉄道省で出・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
出典:青空文庫