・・・師が一つ映らなかったなら、そうして、その影法師が、障子の引手へ手をかけると共に消えて、その代りに、早水藤左衛門の逞しい姿が、座敷の中へはいって来なかったなら、良雄はいつまでも、快い春の日の暖さを、その誇らかな満足の情と共に、味わう事が出来た・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・ パール・バックの「この誇らかな心」という小説は、生活の現実としてそういう課題を感じている今日の日本の読者にどんな感銘を与えているだろうか。 作者がこの一篇の女主人公として描き出しているスーザン・ゲイロードは、女のなかの女ともいうべ・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・それを訳したことを誇らかに思うような一つの偉大な、善意と努力に満ちた文章であったとしたら、訳者たる者はどこの隅にか自分の人間的寄与の跡をとどめたいと希わなかっただろうか。 現実に対する洞察、理解、働きかけが、外見は全く同一のような二つの・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・との説得に、新しい愛人としての優越感ばかりで誇らかであり得るだろうか。職場で働き、職場でたたかいつつある若い独立した婦人であったらばこそ、女の上に新鮮な意志と情感が花咲いていた。もしせまい家庭にかがまって夫に依存する女になったら、急に色あせ・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
出典:青空文庫