・・・ ――さすがのジャーナリズムもその非を悟ったか、川那子メジシンの誇大広告の掲載を拒絶するに至った……。 お前はすぐ紋附袴で新聞社へかけつけ、「――広告部長を呼べ!」 そして広告部長が出て来ると、「――おれの広告の・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・その堪らなさが妙に誇大されて感じられる。誇大だとは思っても、そう思って抜けられる気持ではなかった。先刻の古本屋へまた逆に歩いて行った。やはり買えなかった。吝嗇臭いぞと思ってみてもどうしても買えなかった。雪がせわしく降り出したので出張りを片付・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
・・・青森市に対して焼夷弾攻撃が行われたようで、汽車が北方に進行するにつれて、そこもやられた、ここもやられたという噂が耳にはいり、殊に青森地方は、ひどい被害のようで、青森県の交通全部がとまっているなどという誇大なことを真面目くさって言うひともあり・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・議会でも暴露の泥仕合にのみ忙しくして積極的に肝要な国政を怠れば真面目な国民は決して喜ばないであろうと同様に、学位授与の弊害のみを誇大視して徒らにジャーナリズムの好餌としていては、その結果は却って我邦学術の進運を阻害するようなことに多少でもな・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・これはあるいは誇大の過言であるとしても、われわれは新聞の概念的社会記事から人間界自然界における新しき何物かを発見しうる見込みはほとんど皆無と言ってよい。しかるに一見なんでもないような市井の些事を写したニュース映画を見ているときに、われわれお・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・これは一見誇大な言明のようであるが実は必ずしも過言でないことはこの言葉の意味を深く玩味される読者にはおのずから明らかであろうと思われる。 こういう意味で自分は、俳句のほろびない限り日本はほろびないと思うものである。 付言・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・次にその対象の見方および取扱いの上に如何なる特徴があるかと考えてみると、その対象の形態的ないし心理的の現象の中である特別な部分を抽象してその部分を誇大しあるいは挙揚して表示するというのが一つの顕著な点である。例えば鼻の大きい人の鼻を普通の計・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・ このような種類の機微な吻合がしばしば繰り返されて、そしてその事が誇大視された結果としていわゆる厄年の説が生れたと見るべき理由が無いでもない。 ある柳の下にいつでも泥鰌が居るとは限らないが、ある柳の下に泥鰌の居りやすいような環境や条・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・去の英雄豪傑は非常にえらい人のように見えて、自分より上の人は非常にえらくかつ古人が世の中に存在し得るという信仰があったため、また、一は所が隔たっていて目のあたり見なれぬために遠隔の地の人のことは非常に誇大して考えられたものである、今は交通が・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・この、壊れた鏡のような文章は、散乱して、震えて曲って局部が神経的に誇大された断片をうつしている。ギラギラとわれ目が光っていても、それはどんなにひどく、補填しがたく鏡が粉砕してしまったかを語っているに過ぎない。このことは、落付いた精神をもって・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
出典:青空文庫