・・・一月の十二三日に収容せられ、生死不明者等はそこで初めて戦死と認定せられ、遺骨が皆本国の聨隊に着したんは、三月十五日頃であったんや。死後八カ月を過ぎて葬式が行われたんや。」「して、大石のからだはあったんか?」「あったとも、君――後で収・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・二度とふたたびお逢いできぬだろう心もとなさ、謂わば私のゴルゴタ、訳けば髑髏、ああ、この荒涼の心象風景への明確なる認定が言わせた老いの繰りごと。れいの、「いのち」の、もてあそびではない。すでに神の罰うけて、与えられたる暗たんの命数にしたがい、・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・ 数十里、数百里を距てたる測候所の観測を材料として吾人はいわゆる等温線、等圧線を描き、あるいは風の流線の大勢を認定す。この際吾人の行為に裏書きする根拠はいずこにありやというに、第一にこれら要素の空間的時間的分布が規則正しきという事なり。・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・しかしまた元来少しも狂気でないものを、誤って狂気と認定されて今日に至ったものかもしれない。万一そうであったとすると象にとってははなはだしき迷惑な事であったと言わなければならない。 この問題に対してなんらかの判断を下しうるためにはまず第一・・・ 寺田寅彦 「解かれた象」
・・・世間は学校の採点を信ずるごとく、評家を信ずるの極ついにその落第を当然と認定するに至るだろう。 ここにおいて評家の責任が起る。評家はまず世間と作家とに向って文学はいかなる者ぞと云う解決を与えねばならん。文学上の述作を批判するにあたって批判・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・でもいずれそのうち私が自転車で御宅へ伺いましょう、そしていっしょに散歩でもしましょう、――サイクリストに向っていっしょに散歩でもしましょうとはこれいかに、彼は余を目してサイクリストたるの資格なきものと認定せるなり このうつくしき令嬢と「・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・出たのはいつごろでしたか、私は担任者であったけれども病気をしたからあるいはその病気中かも知れず、または病気中でなくって、私が出して好いと認定したのかも知れません。とにかくその批評が朝日の文芸欄に載ったのです。すると「日本及び日本人」の連中が・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・「ブルジョア法律は、認定で送れるんだからね、謂わば君が承認するしないは問題じゃないんだ」「そう云うのなら仕方がない」 自分は云うのであった。「事実がないからないと云って、それが通用しないのなら、出鱈目を云っている人間と突合わ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・若し現今、男性の社会生活が認定して居る或権利でも、其の価値が低級である場合には、其の存在を否定する丈の見識がなければなりません。 私共は落付いて、真剣に、人格的自由と云う事を考えなければなるまいと存じます。教養のない者の破廉恥は、教養あ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・被告たちが、新刑事訴訟法について知らず、認定でやってやるという検事の言葉におびえたわけもわかる。 第一回の公判廷において、被告とともに公訴とりさげを主張し、あるいは、法の公正と人権擁護のために立ったのは、自由法曹団の弁護人ばかりではなか・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
出典:青空文庫