・・・ 新しい日本が誕生するならば、その民主的な第一日の暁に、この点が、最も根本的な人権の問題として提起されなければならないのである。 司法省の部内にも種々の動きが在ることを新聞は報じている。そして、その動きは、二枚の種板が一つの暗箱の中・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ この節のようなインフレーションでどの家でも貯金もなくなり、子供に一本の飴でも食べさせたいため、また夫の誕生日にすきなものの一つも食べさせたいというつまり妻や母の気持で、紙に「裁縫致します」と書くことになって来ている。けれどもこの「和服・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・わたしたちの理論が情熱の美感と一致するとき――実感の新しい誕生によってこそ、わたしたちのささやかな存在も人類のよろこびの小さい花となります。又しても「世帯」の本能性と盲目性は、この詩集のどこにもないと思い、そのことに本質的な期待を感じます。・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
・・・二月 十三日 誕生日、皮の袋、岩本さんと三人で若松へ行く。下の Whittier のホールでは、支那人のミーティングがあった。此日のAの日記。〔以下原稿十二行分欠〕二月 十五日 いつかおすしを食べたいと云ったのが真個に成って夜和田さ・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・父の五十五回目の誕生日のとき、ベルリン大学にいた十九歳のカールはお祝として、それ迄につくった四十篇の詩と、悲劇の一幕と、喜劇小説の数章とをまとめて「永久の愛のわずかなしるしとして」この高貴な人がらをもつ父に贈った。或る人はいっている。カール・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ ところで、この明治維新、日本の資本主義国家の誕生は、ヨーロッパの自由都市の市民が、第三階級として自身の経済力にたって近代の社会機構に移って行ったのとは、全く性質を異にする。 明治政府は市民が下からこしらえた政府ではなかった。日本の・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・ただそれのみの完成にても芸術上に於ける一大基礎概念の整頓であり、芸術上に於ける根本的革命の誕生報告となるのは必然なことである。だが、自分はここではその点に触れることは暗示にとどめ、新感覚の内容作用へ直接に飛び込む冒険を敢てしようとするのであ・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・しかしその後の研究によれば、スーダンの民族の美しい衣服はアフリカ固有のものであってムハメッドの誕生よりも古い。またスーダンの国家の特有の組織はイスラムよりもはるか前からあり、ニグロ・アフリカの耕作や教育の技術、市民的な秩序や手工芸などは、中・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・あるいは釈迦の誕生を見まもる女の群れである。風景を描けば、そこには千の与四郎がたたずんでいる。あるいは維盛最後の悲劇的な心持ちが、山により川によって現わそうと努められている。さらに純然たる幻想の物語を、すなわち雨月物語を、画に翻訳しようとす・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・十四になった誕生日には初めてジュリアをつとめたが、そのころは見すぼらしい、弱々しげな、見ていて気の毒になるような小娘であった。人を引きつける力などは少しもない。暇さえあると古い彫刻と対坐していつまでもいつまでもじっとしている。 一八七九・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫