・・・(さきに述べた誘因のためにのみ情死を図ったのではなしに、そのほかのくさぐさの事情がいりくんでいたことをお知らせしたくて、私は、以下、その夜の追憶を三枚にまとめて書きしるしたのであるが、しのびがたき困難に逢着し、いまはそっくり削除した。読者、・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ピンポン大学の学生であるという矜持が、その不思議の現象の一誘因となって居るのである。伝統とは、自信の歴史であり、日々の自恃の堆積である。日本の誇りは、天皇である。日本文学の伝統は、天皇の御製に於いて最も根強い。 五七五調は、肉体化さ・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・それで、こういう種類のいわゆる科学小説は、たいていは科学者にはばからしく、素人には科学に対する重大な誤解の誘因ともなりうるのである。 これに反して科学者が科学者に固有な目で物象を見、そうして科学者に固有な考え方で物を考えたその考えの筋道・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫