・・・この種の読物こそ、階級闘争の種子を蒔き、その激化を将来に誘発する因となるものです。 すべて、人間は、良心ある生活を送らなければならぬ。そして正直に生きなければならぬ。また、愛し扶け合わなければならぬし、正義のためには自己を犠牲にして戦わ・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・これに反して個々の研究者の直接の体験を記述した論文や著書には、たとえその題材が何であっても、その中に何かしら生きて動いているものがあって、そこから受ける暗示は読む人の自発的な活動を誘発するある不思議な魔力をもっている。そうして読者自身の研究・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・というものに対する一般観客の内部に自然に進行するところのリズムがまさしくスクリーンの上に躍動するために、それによって観客の心の波は共鳴しつつ高鳴りし、そうして彼らの腕の筋肉は自然に運動を起こして拍手を誘発されるのであろう。しかしこの際これら・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ この二つの錯覚の場合は映画の写像の、客観的には不安全な写実能力が、いかに多く観客の頭の中に誘発される連想の補足作用によって助長されているかを示す実例として注意さるべきものかと思われるのである。 十三 「世界の終わり」と・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・活動映画のオーヴァーラップの技巧はつまり故意にこのカメラの記憶のアベレーションを利用して観客の心のアベレーションを誘発しようとするのであろう。このごろのアサヒグラフの表紙裏に出ている二重写しのお慰みの当てものなどはいちばん罪が浅いほうであろ・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・そうして生徒自身の研究慾を誘発するであろう。 日本の科学雑誌が色々ある、中には科学の抜殻だけを満載して中実は空虚なのもあるようである。そういうような雑誌で西洋人の研究発見発明などは下らぬものまで紹介しているが、日本の学者の面白い研究が正・・・ 寺田寅彦 「雑感」
・・・こういう瞬間が最もたわいのない軽口とそれに対する爆笑を誘発するに適当なものではないか。とにかく、これも未来の生理学的心理学者の研究題目の一つにはなりそうだと思われた。 そのうちうなぎどんぶりが三人の前に運ばれて食事が始まると同時に今まで・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ 地殻の歪みが漸次蓄積して不安定の状態に達せる時、適当なる第二次原因例えば気圧の変化のごときものが働けば地震を誘発する事は疑いなきもののごとし。故に一方において地殻の歪みを測知し、また一方においては主要なる第二次原因を知悉するを得れば地・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・もっとも蝶のある種類たとえば Amauris psyttalea の雄などはその尾部に備えた小さな袋から一種特別な細かい粉を振り落としながら雌の頭上を飛び回って、その粉の魅力によって雌の興奮を誘発するそうである。 百年の後を恐れる人には・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 地震による山崩れは勿論、颱風の豪雨で誘発される山津浪についても慎重に地を相する必要がある。海嘯については猶更である。大阪では安政の地震津浪で洗われた区域に構わず新市街を建てて、昭和九年の暴風による海嘯の洗礼を受けた。東京では先頃深川の・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
出典:青空文庫