・・・ と、語呂よく、調子よく、ひょいと飛び出した言葉だが、しかしその調子の軽さにくらべて、心はぐっしょり濡れた靴のように重かった。 小沢は学生時代、LUMPENという題を出されて、「RUMPEN とは合金ペンなり」 という怪しげ・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・なりこれを聞いてアラ姉さんとお定まりのように打ち消す小春よりも俊雄はぽッと顔赧らめ男らしくなき薄紅葉とかようの場合に小説家が紅葉の恩沢に浴するそれ幾ばく、着たる糸織りの襟を内々直したる初心さ小春俊雄は語呂が悪い蜆川の御厄介にはならぬことだと・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・接眼の材料は豚の目では語呂が悪いから兎の目と云う事にした。奇蹟が実現せられて、其の女は其の日から世界を杖で探る必要が無くなった。エディポス王の見捨てた光りの世を、彼女は兎の目で恢復する事が出来たのである。此の事件は余程世間を騒がせたと見えて・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・しかるにフランスのハイカイはなるほど三つの詩句でできているというだけは日本のに習っているが、一句の長さにはなんの制限もないし、三句の終わりの語呂の関係にも頓着しない。それでは言わば多少気のきいたノート・ド・カルネーぐらいにはなるかもしれない・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
出典:青空文庫