・・・は、当時の天主教徒間に有名な物語の一つとして、しばしば説教の材料にもなったらしい。自分は、今この覚え書の内容を大体に亘って、紹介すると共に、二三、原文を引用して、上記の疑問の氷解した喜びを、読者とひとしく味いたいと思う。―― 第一に、記・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・ああ、思えば一度でも好いから、わたしの説教を聴かせたかったと云った。それから――また各方面にいろいろ批評する名士はあったが、いずれも蟹の仇打ちには不賛成の声ばかりだった。そう云う中にたった一人、蟹のために気を吐いたのは酒豪兼詩人の某代議士で・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・ 僕はそちらを向いたまま、説教因縁除睡鈔と言う本を読んでいた。これは和漢天竺の話を享保頃の坊さんの集めた八巻ものの随筆である。しかし面白い話は勿論、珍らしい話も滅多にない。僕は君臣、父母、夫婦と五倫部の話を読んでいるうちにそろそろ睡気を・・・ 芥川竜之介 「死後」
・・・和尚は説教の座へ登る事があると、――今でも行って御覧になれば、信行寺の前の柱には「説教、毎月十六日」と云う、古い札が下っていますが、――時々和漢の故事を引いて、親子の恩愛を忘れぬ事が、即ち仏恩をも報ずる所以だ、と懇に話して聞かせたそうです。・・・ 芥川竜之介 「捨児」
・・・ クララが十六歳の夏であった、フランシスが十二人の伴侶と羅馬に行って、イノセント三世から、基督を模範にして生活する事と、寺院で説教する事との印可を受けて帰ったのは。この事があってからアッシジの人々のフランシスに対する態度は急に変った。あ・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・詩とそれらとの関係は、日々の帳尻そうして詩人は、けっして牧師が説教の材料を集め、淫売婦がある種の男を探すがごとくに、何らかの成心をもっていてはいけない。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 粗雑ないい方ながら、以上で私のいわん・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・要品を読誦する程度の智識では、説教も済度も覚束ない。「いずれ、それは……その、如是我聞という処ですがね。と時に、見附を出て、美佐古はいかがです。」「いや。」「これは御挨拶。」 いきな坊主の還俗したのでもないものが、こはだの鮨・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ 九段の坂下の近角常観の説教所は本とは藤本というこの辺での落語席であった。或る晩、誰だかの落語を聴きに行くと、背後で割れるような笑い声がした。ドコの百姓が下らぬ低級の落語に見っともない大声を出して笑うのかと、顧盻って見ると諸方の演説会で・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・終末に関する大説教である、二十一章七節より三十六節まで。 勿論以上を以て尽きない、全福音書を通じて直接間接に来世を語る言葉は到る所に看出さる、而して是は単に非猶太的なる路加伝に就て言うたに過ぎない、新約聖書全体が同じ思想を以て充溢れ・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・彼女は何をしても直ぐ口や手を洗う水臭い校長を、肉体的にも精神的にも愛することは出来ないと思ったが、くどくど説教されているうちに、さすがにただれ切った性生活から脱け出して、校長一人を頼りにして、真面目な生活にはいろうと決心した。しかし、料理屋・・・ 織田作之助 「世相」
出典:青空文庫