・・・人間てものは誰でも誤って邪路に踏迷う事があるが、心から悔悛めれば罪は奇麗に拭い去られると懇々説諭して、俺はお前に顔へ泥を塗られたからって一端の過失のために前途にドンナ光明が待ってるかも解らないお前の一生を葬ってしまいたくない。なお更これから・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・ 彼の期待は外れて、横井は警官の説諭めいた調子で斯う繰り返した。「そうかなあ……」「そりゃそうとも。……では大抵署に居るからね、遊びに来給え」「そうか。ではいずれ引越したらお知らせする」 斯う云って、彼は張合い抜けのした・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・すると父から非常にしかられて、早速今夜あやまりに行けと命ぜられ長者を辱めたというので懇々説諭された。 その晩、僕は大沢先生の宅を初めて訪ねたが、別にあやまるほどの事もなく、老先生はいかにも親切にいろいろな話をして聞かして、僕は何だか急に・・・ 国木田独歩 「初恋」
・・・午後、我がせし狼藉の行為のため、憚る筋の人に捕えられてさまざまに説諭を加えられたり。されどもいささか思い定むるよし心中にあれば頑として屈せず、他の好意をば無になして辞して帰るやいなや、直ちに三里ほど隔たれる湯の川温泉というに到り、しこうして・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・丁度それは高等学校時分の事で、親友に米山保三郎という人があって、この人は夭折しましたが、この人が私に説諭しました。セント・ポールズのような家は我国にははやらない。下らない家を建てるより文学者になれといいました。当人が文学者になれといったのは・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・ 貧民の有様、かくの如しといえども、近年は政府よりもしきりに御世話、市在の老人たちもしきりに説諭、また一方には、日本の人民も久しく太平文化の世に慣れて、教育の貴きゆえんを知り、貧苦の中にも、よくその子を教育の門に入らしめ、もって今日の盛・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
河上氏の私に対する反ばくは一種独特な説諭調でなかなか高びしゃである、が、論点が混乱していて、多くの点が主観的すぎる。河上氏は私が「読者の声を拒絶し、封じ」「一切の批判をさしひかえ」させようとするかのように書いているが、全く・・・ 宮本百合子 「河上氏に答える」
・・・ つい先夜も、玉の井あたりの小路をうろついていた若いものたちが二百何人か説諭をうけた写真が出ていた。そういう忠告も、勿論意味がある。けれども、忠告を与えている人々は、例えばテニス・コートなどが、工場の若い人たちのために夕刻から夜へ開放さ・・・ 宮本百合子 「若きいのちを」
出典:青空文庫