・・・ ついでながら、断片的な通俗科学的読み物は排斥すべきものだというような事を新聞紙上で論じた人が近ごろあったようであるが、あれは少し偏頗な僻論であると私には思われた。どんな瑣末な科学的知識でも、その背後には必ずいろいろな既知の方則が普遍的・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・そうしたためにもしこの僅少な時間を空費したとしても、乗車してからの数十分間にからだを休息させ、こういう時でなければちょっと読む機会のないような種類の読み物を十ページでも読むとすれば、差し引きして、どうしてもこのほうが利益であるとしか思われな・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・子供に勉強させるには片端から読み物に干渉して良書をなるべく見せないようにするのも一つの方法であるかもしれない。そうして読んでいけないと思う種類の書物を山積して毎日の日課として何十ページずつか読むように命令するのも一法であるかもしれない。・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・たとえば万葉や古事記の歌でも源氏や枕草子のような読み物でも、もしそのつもりで捜せばそれらの中にある俳句的要素とでも名づけられるようなものを拾い出すことは決してそれほど困難ではあるまいと思われる。 ここで自分がかりに俳句的要素とかいう名前・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・この花の散る窓の内には内気な娘がたれこめて読み物や針仕事のけいこをしているのであった。自分がこの家にはじめて来たころはようよう十四五ぐらいで桃割れに結うた額髪をたらせていた。色の黒い、顔だちも美しいというのではないが目の涼しいど・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・それにはいわゆる新聞小説よりももっとおもしろくて上等でかつ有益な小説もあろうし、風聞録の代わりになるもっとまとまった読み物もあるだろう。そういう書物を毎日新聞を読む時間にひと切りずつ読む事にしたらどうであろう。その積算的効果はかなりなものに・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・少年や幼年の読み物にしてもどれをあけて見ても中は同じである。そして若い柔らかい頭の中から、美に対する正しい感覚を追い出すためにわざわざ考案されたような、いかにもけばけばしい、絵というよりもむしろ臓腑の解剖図のような気味の悪い色の配合が並べら・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ たしか浅井和田両画伯の合作であったかと思うがフランスのグレーの田舎へ絵をかきに行った日記のようなものなども実に清新な薫りの高い読物であった。その内容はすっかり忘れてしまったが、それを読んだときに身に沁みた平和で美しいフランスの田舎の雰・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・しかし読物には事を欠かなくてマクスウェルの電磁気論や、マクスウェル及びヘルムホルツの色の研究、それからストークスやウィリアム・タムソンの主要な論文を読み、傍らまたミルの論理学や経済論を読んでいた。 一八六六年二十四歳で Trinity ・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ そして最も大切なのはその読み物だと云う事も出来ます。 外国はどうだか知りませんけど日本で小供に対しての読物の注意と云う事は先まであんまり重じられていませんでした。 十一二の子供は必して、カチカチ山、桃太郎 の御話に満足するもん・・・ 宮本百合子 「現今の少女小説について」
出典:青空文庫