・・・…… ――其の後、売薬規則の改備によって、医師の誹謗が禁じられると、こんどは肺病全快写真を毎日掲載して、何某博士、何某医院の投薬で治らなかった病人が、川那子薬で全快した云々と書き立てた。世の人心を瞞着すること、これに若くものはない。・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・不備に対して当事者を攻撃し誹謗する事よりもむしろ当事者の味方になり、そうして一般読者とともにその不備を除去する方法を講究する機関となる事を心がけたいものである。そういう心持ちがもう少しはっきり現われていさえすれば、現在の新聞でももう少し気持・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・但し記者が此不和不順を始めとして、以下憤怒怨恨誹謗嫉妬等、あらん限りの悪事を書並べて婦人固有の敗徳としたるは、其婦人が仮令い之を外面に顕わさゞるも、心中深き処に何か不平を含み、時として之を言行に洩らすことありとて、其心事微妙の辺を推察したる・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・このごろ世間に、皇学・漢学・洋学などいい、おのおの自家の学流を立て、たがいに相誹謗するよし。もってのほかの事なり。学問とはただ紙に記したる字を読むことにて、あまりむつかしき事にあらず。学流得失の論は、まず字を知りて後の沙汰なれば、あらかじめ・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・マルクシズム誹謗をこととした。こんにち客観すれば、当時の転向問題の扱いかたの多くは、本質において検事局的な匂いをふくんでいるか、あるいは、傷つかない傍観者の正義感の自己満足の要素がなくはなかった。「冬を越す蕾」で、日本の近代社会にのこさ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 私はあなたに、自分の云ったことを事実で証明するか、さもなければ、誹謗した責任を負うか、どっちかさせます。私は命令する――分りましたか? 命令する! この事件を監督委員会へ持ち出しなさい。どっちが正しいか、そこで話しましょう。」 ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・それらの人達が自分を正しい者としようとして論敵マルクスに加える誹謗と、マルクスを最大の敵とみるブルジョア社会とは、カールにあびせられるだけの雑言をあびせつづけた。それらもイエニーの明るく暖い心持を傷つけることは出来なかった。いつの間にかイエ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・即ち、その誹謗が実質的な価値は持って居ないと分りつつ尚不快である如く、或る賞揚や尊敬は、又其の実質が如何に低いかを知りつつ、又或る淡い愉快と、由づけとを感じないわけには行かないということなのである。 小さい魂や、浅薄な動機からの追従も、・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・文学上のその対立物が目前で蒙った破壊の有様の目撃は、知識人としての心理に於て、それを誹謗した作家たちにも不安と動揺とをもたらさずにいなかったことは明らかである。 当時叫ばれた文芸復興の声は、プロレタリア文学の陣営に属していた人々の間から・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・共産党員は、永い抑圧の歴史の中で沢山の誹謗に耐えて来たのであったが、この事件に関係のあった当時の中央委員たちは、人間として最も耐えがたい、最も心情を傷められる誹謗を蒙った。人殺しとして扱われ、惨虐者として描き出され、法律は、法の無力を証明し・・・ 宮本百合子 「信義について」
出典:青空文庫