一、語学の英露独など出来る事。但どの位よく出来るか知らず。 二、几帳面なる事。手紙を出せば必ず返事をくれるが如き。 三、家庭を愛する事。殊に母堂に篤きが如し。 四、論争に勇なる事。 五、作品の雕琢に熱心なる・・・ 芥川竜之介 「彼の長所十八」
・・・この故に往往石器時代の脳髄しか持たぬ文明人は論争より殺人を愛するのである。 しかし亦権力も畢竟はパテントを得た暴力である。我我人間を支配する為にも、暴力は常に必要なのかも知れない。或は又必要ではないのかも知れない。 「人間ら・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・はすでに五年の間間断なき論争を続けられてきたにかかわらず、今日なおその最も一般的なる定義をさえ与えられずにいるのみならず、事実においてすでに純粋自然主義がその理論上の最後を告げているにかかわらず、同じ名の下に繰返さるるまったくべつな主張と、・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・十数年以往文壇と遠ざかってからは較や無関心になったが、『しがらみ草紙』や『めざまし草』で盛んに弁難論争した頃は、六号活字の一行二行の道聴塗説をさえも決して看過しないで堂々と論駁もするし弁明もした。 それにつき鴎外の性格の一面を窺うに足る・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・この場合のような選択について、有名なシルレルとカントとの論争が起こるのだ。道徳的義務の意識からでなく、活々とした感情の動きにより、いわゆる「美しきたましい」によって行為すべきであるというシルレルの抗議が生じるのだ。 しかしひとたびかよう・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・実際それらの教団の中には理論のための理論をもてあそぶソフィスト的学生もあれば、論争が直ちに闘争となるような暴力団体もあり、禅宗のように不立文字を標榜して教学を撥無するものもあれば、念仏の直入を力調して戒行をかえりみないものもあった。 世・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・それで順番に各自が宛がわれた章を講ずる、間違って居ると他のものが突込む、論争をする、先生が判断する、間違って居た方は黒玉を帳面に記されるという訳なのです。ですから、「彼奴高慢な顔をして、出来も仕無い癖にエラがって居る、一つ苦しめて遣れ」とい・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・ああ、ヴァレリイと直接に論争できるぞ。あの眠たそうなプルウストをひとつうろたえさせてやろうじゃないか。コクトオはまだ生きているよ。君、ラディゲが生きていたらねえ。デコブラ先生にも送ってやってよろこばせてやるか、可哀そうに。 こんな空想は・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・今はもう皆故人となった佐野さん須藤さん大谷さんなどの諸先輩の快活で朗かな論争もその当時のコロキウムの花であった。アインシュタインの相対性原理の最初の論文を当時講師であった桑木さんが紹介され、それが種となって議論の花を咲かせたのもその頃の事で・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・ヘルムホルツ、ヘルマン以来の論争はまだ解決したとは言われないようである。このような方面にはまだたくさんの探究すべき問題が残っている。ことに日本人にとっては日本語の母音や子音の組成、また特有な音色をもった三味線や尺八の音の特異な因子を研究する・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
出典:青空文庫