・・・と題した二節の論旨を読むと、正直のところ、僕は自分の申し分が奇矯に過ぎていたのを感ずる。 しかしながら僕はもう一度自分自身の心持ちを考えてみたい。僕が即今あらん限りの物を抛って、無一文の無産者たる境遇に身を置いたとしても、なお僕には非常・・・ 有島武郎 「片信」
・・・日本の文化を根本的に革新するには先ず人種を改造するが先決問題であるというが博士の論旨で、人種改良の速成法として欧米人との雑婚を盛んに高調した。K博士の卓説の御利生でもあるまいが、某の大臣の夫人が紅毛碧眼の子を産んだという浮説さえ生じた。・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 日蓮はこの論旨を、いちいち諸経を引いて論証しつつ、清澄山の南面堂で、師僧、地頭、両親、法友ならびに大衆の面前で憶するところなく闡説し、「念仏無間。禅天魔。真言亡国。律国賊。既成の諸宗はことごとく堕地獄の因縁である」と宣言した。・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・このパウロの句でも無かった事には、僕の論旨は、しどろもどろで甘ったるく、甚だ月並みで、弟妹たちの嘲笑の種にせられたかもわからない。危いところであった。パウロに感謝だ、と長兄は九死に一生を得た思いのようであった。長兄は、いつも弟妹たちへの教訓・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 今までの論旨をかい摘んでみると、第一に自己の個性の発展を仕遂げようと思うならば、同時に他人の個性も尊重しなければならないという事。第二に自己の所有している権力を使用しようと思うならば、それに附随している義務というものを心得なければなら・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・左れば我輩は女大学を見て女子教訓の弓矢鎗剣論と認め、今日に於て毫も重きを置かずと雖も、論旨の是非は擱き、記者が女子を教うるの必要を説く其熱心に至りては唯感服の外なし。依て今我輩の腹案女子教育説の大意を左に記し、之を新女大学と題して地下に記者・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・今の民権論者は近来はじめてこれらの論旨を聞き得て、その奇異に驚き、これに驚き、これに動揺して、あたかも聾盲の耳目を開きたるが如きものなればなり。もとよりその論者中には、多年の苦学勉強をもって、内に知識を蔵め、広く世上の形勢を察して、大いに奮・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・ あるいはいわく、倫理教科書は道徳の新主義をつくりたるに非ず、東西先哲の論旨を述べてその要を示したるまでのものなれば、その何人の手になり、また何の辺より出でたる云々の詮索は、無益の論なりとの説もあらんなれども、鄙見をもってすれば決して然・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・ 大へん温和しい論旨でしたので私たちは実際本気に拍手しました。すると私たちの席から三人ばかり祭司次長の方へ手をあげて立った人がありましたが祭司次長は一番前の老人を招きました。その人は白髯でやはり牧師らしい黒い服装をしていましたが壇に昇っ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・おくれた低い文化はたかまり、狭い高い文化はもっと一般化されなければならないというのが谷川氏の論旨であった。ところが、当時の情報局文化統制は、講談社、主婦之友を極端な軍国主義に動員することで好戦意識を宣伝していたから、谷川氏の平衡論はその現実・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
出典:青空文庫