・・・これは恐らく、彼の満足が、暗々の裡に論理と背馳して、彼の行為とその結果のすべてとを肯定するほど、虫の好い性質を帯びていたからであろう。勿論当時の彼の心には、こう云う解剖的な考えは、少しもはいって来なかった。彼はただ、春風の底に一脈の氷冷の気・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・議論をしても、論理よりは直観で押して行く方だ。だから江口の批評は、時によると脱線する事がないでもない。が、それは大抵受取った感銘へ論理の裏打ちをする時に、脱線するのだ。感銘そのものの誤は滅多にはない。「技巧などは修辞学者にも分る。作の力、生・・・ 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・――そうまた父の論理の矛盾を嘲笑う気もちもないではなかった。「お絹は今日は来ないのかい?」 賢造はすぐに気を変えて云った。「来るそうです。が、とにかく戸沢さんが来たら、電話をかけてくれって云っていました。」「お絹の所でも大変・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・彼らは第四階級以外の階級者が発明した文字と、構想と、表現法とをもって、漫然と労働者の生活なるものを描く。彼らは第四階級以外の階級者が発明した論理と、思想と、検察法とをもって、文芸的作品に臨み、労働文芸としからざるものとを選り分ける。私はそう・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ところがこの論理の不徹底な、矛盾に満ちた、そして椏者の言葉のように、言うべきものを言い残したり、言うべからざるものを言い加えたりした一文が、存外に人々の注意を牽いて、いろいろの批評や駁撃に遇うことになった。その僕の感想文というのは、階級意識・・・ 有島武郎 「片信」
・・・そうしてそこには日本人特有のある論理がつねに働いている。 しかも今日我々が父兄に対して注意せねばならぬ点がそこに存するのである。けだしその論理は我々の父兄の手にある間はその国家を保護し、発達さする最重要の武器なるにかかわらず、一度我々青・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・という自滅的の論理を含んでいる。 新らしい詩に対する比較的まじめな批評は、主としてその用語と形式とについてであった。しからずんば不謹慎な冷笑であった。ただそれら現代語の詩に不満足な人たちに通じて、有力な反対の理由としたものが一つある。そ・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・が、畢竟は談理を好む論理遊戯から愛読したので、理解者であったが共鳴者でなかった。書斎の空想として興味を持っても実現出来るものともまた是非実現したいとも思っていなかった。かえってこういう空想を直ちに実現しようと猛進する革命党や無政府党の無謀無・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・フィロソフィーというは何処までも疑問を追究する論理であって、もし最後の疑問を決定してしまったならそれはドグマであってフィロソフィーでなくなってしまうと。また曰く、人生の興味は不可解である、この不可解に或る一定の解釈を与えて容易に安住するは「・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・これは日本支那の通弊サ、数学的観念が発達しない人間は馬鹿馬鹿しい事を考えるものだよ。論理学なんぞは学ぶに足らないのサ、数学で沢山サ。イイカネ、「物は或勢力より追やらるる時は螺線的にすすむ」というのが真理だよ、この真理を君に実例で示そうか。吹・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
出典:青空文庫