・・・その眼がまた、妙に本間さんの論鋒を鈍らせた。「成程、ある仮定の上に立って云えば、君の説は正しいでしょう。」 本間さんの議論が一段落を告げると、老人は悠然とこう云った。「そうしてその仮定と云うのは、今君が挙げた加治木常樹城山籠城調・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・は無用の饒舌を弄する謂ではない、鴎外は無用の雑談冗弁をこそ好まないが、かつてザクセンの建築学会で日本家屋論を講演した事がある、邦人にして独逸語を以て独逸人の前で演説したのは余を以て嚆矢とすというような論鋒で、一々『国民新聞』所載の文章を引い・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・政擁護を叫ぶ熱弁、若くは建板に水を流すようにあるいは油紙に火を点けたようにペラペラ喋べり立てる達弁ではなかったが、丁度甲州流の戦法のように隙間なく槍の穂尖を揃えてジリジリと平押しに押寄せるというような論鋒は頗る目鮮ましかった。加うるに肺腑を・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・薔薇の中から香水を取って、香水のうちに薔薇があると云ったような論鋒と思います。私の考えでは薔薇のなかに香水があると云った方が適当と思います。もっともこの時間及びあとから御話をする空間と云うのは大分むずかしい問題で、哲学者に云わせると大変やか・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・、その美風は西洋の文明国人をしてかえって赤面せしむるもの少なからず、以て家を治め以て社会を維持するその事情は云々、その証拠は云々と語らんとすれども、何分にも彼らが今日の実証を挙げて正面より攻撃するその論鋒に向かっては、残念ながら一着を譲らざ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 富田は少し酔っているので、論鋒がいよいよ主人に向いて来る。「一体ここの御主人のような生活をしていられては、周囲の女のために危険で行けない。」「なぜだい、君。」「いつどの女とどう云う事が始まるかも知れないんだからね。」「まる・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫