・・・僕はその夜田山花袋、高島米峰、大町桂月の諸氏に初めてお目にかかることが出来た。 ◇ 僕は又滝田君の病中にも一度しか見舞うことが出来なかった。滝田君は昔夏目先生が「金太郎」とあだ名した滝田君とは別人かと思うほど憔悴してい・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎君」
・・・私はいつも云っていたことですが、滝田さんは、徳富蘇峰、三宅雄二郎の諸氏からずっと下って僕等よりもっと年の若い人にまで原稿を通じて交渉があって、色々の作家の逸話を知っていられるので、もし今後中央公論の編輯を誰かに譲って閑な時が来るとしたら、そ・・・ 芥川竜之介 「夏目先生と滝田さん」
・・・議会の開けるまで惰眠を貪るべく余儀なくされた末広鉄腸、矢野竜渓、尾崎咢堂等諸氏の浪花節然たる所謂政治小説が最高文学として尊敬され、ジュール・ベルネの科学小説が所謂新文芸として当時の最もハイカラなる読者に款待やされていた。 二十五年前には・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・紅葉美妙以下硯友社諸氏の文品才藻には深く推服していたが、元来私の志していたのは経済であって、文学の如きは閑余の遊戯としか思っていなかった。平たくいうと、当時は硯友社中は勿論、文学革新を呼号した『小説神髄』の著者といえども今日のように芸術を深・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・会う機会を得た作家は、会うた順に言うと、藤沢、武田、久米、片岡、滝井、里見の諸氏。最近井上友一郎氏に会い、その大阪訛をきいて、嬉しかった。 小説の勉強をはじめてからまだ四年くらいしか経たない。わが文学修業はこれからである。健康が許せば、・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・自分は士官室で艦長始め他の士官諸氏と陛下万歳の祝杯を挙げた後、準士官室に回り、ここではわが艦長がまだ船に乗らない以前から海軍軍役に服していますという自慢話を聞かされて、それからホールへまわった。 戦時は艦内の生活万事が平常よりか寛かにし・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・我々は勿論先輩諸氏も決して先生を冷遇するのではないが先生の方で勝手にそう決定て怒っておられる、実に困った者で手の着けようがない。実は自分は梅子嬢を貰いたいと兼ねて思っていたのであるから、井下伯に頼んで梅子嬢だけ滞めて置いて後から交渉して貰う・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・惜しいことには、諸氏ひとしく自らの身の丈よりも五寸ほどずつ恐縮していた。母を殴った人たちである。 四日目、私は遊説に出た。鉄格子と、金網と、それから、重い扉、開閉のたびごとに、がちん、がちん、と鍵の音。寝ずの番の看守、うろ、うろ。この人・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・可笑しいことにはある第三者から見ると被審査者の方が審査員よりもずっと優れた頭脳の持主であって、そうして提出された論文が審査員諸氏の昔の学位論文よりもずっと立派だと思われる場合においてすらも、審査員諸氏がその論文の短所だけを強調して落第させよ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・工学部の課目中に物理実験を加えるようになったのも同君並びに同志の諸氏の考えが導因となったもののように記憶するが、この点は筆者の思い違いかもしれない。鋭い直観の力で一遍に当面の問題の心核を掴んでしまう。そうして簡易な解析と手軽な実験によって問・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
出典:青空文庫