・・・もし、キルションがずっと続けて、この工場と現実的な接触を保っているとしたら、彼は、この汽罐車工場における第二の革命、歴史的瞬間の諸相を見落しただろうか。 作家キルションは、工場内の熟練労働者は勿論のこと、門番、のんだくれて同志裁判にかけ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・これは今日にあって言わば時代の良心であり、或る本能であり、更に最も平凡で身近い日常の諸相が、おのずから、私たちの今日の裡によびさましている平凡であるが故に強い現実に対する判断力なのである。〔一九三七年十月〕・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・ 私たちが謙遜な心で今日の生活の諸相を省みたとき、文化の問題が最大の危険としてもっているものは何だろう。 いろいろの点がさされると思う。けれども現在で最も重大なのは、所謂健全なものの不健全な使われかたに対して、私たちのかんがいつとは・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・今日、プロレタリア文学の歴史的諸相の一つとして文学の大衆化を考えた場合、どうしても数年前とはちがう大衆そのものの広汎複雑な構成、その勤労的性質に即さねばならぬ。そこでは左翼的な意識の有無が第一の問題とはならず、或る勤労条件、生活環境におかれ・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・『文芸』の今回の選には満場一致のような作品がなくて、そのためかえって話題にのぼった各作品が計らず縦横から相当突こんで語られ、それにつれておのずから今日の文学の諸相も示されている。その点が一般の読者にとっても興味深かった。 未完成な作品と・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・なる諸相の逆転として見ようとするこの見解に対して、所謂大衆向きであっても而も社会の現実の必然を必然として客観的に描く「実録文学」という提案をしたのは『文学案内』による貴司山治氏であった。多難なリアリズムの問題、文学の真の意味での大衆性の課題・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・食糧問題、それにからむ土地問題、住宅問題、失業問題、道徳の頽廃の諸相。それは、引つづいて日本の社会を混乱させる公私逆立ちの形として現われている。支配者たちは、人民の公器たる政府の実力で、これらの大課題を、どのように公的に処置しつつあるだろう・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・ 文学は人生社会の諸相を、眼の前にまざまざと見え感じるように描き出す。そこで社会の明るさと暗さはどういう関係において見られるのだろうか。ここに文学の新しい見方があると思う。婦人と文学という問題をとりあげて、それを人類と文学の歴史という問・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ プロレタリア文学においては純技術的な問題を発展的につきつめてゆくと、窮局において、作者がとらえ表現しようとしている現実の諸相に、どんな評価を与えているかというところへ出て来ることは興味ある事実である。文芸批評の歴史は、ここをモメントと・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・もしも黙示の彼らが、かかる現前の諸相であると仮定したなら、彼らの中の勝者はいずれであるか。曾て敗北せる者は貧であった。女性であった。今やその隠忍から擡頭せるものは彼らである。勝利の盃盤は特権の簒奪者たる富と男子の掌中から傾いた。しかし吾々は・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫