・・・意外にも甚だ悄然とした、罪を謝する言葉である。「あたら御役に立つ侍を一人、刀の錆に致したのは三右衛門の罪でございまする。」 治修はちょっと眉をひそめた。が、目は不相変厳かに三右衛門の顔に注がれている。三右衛門はさらに言葉を続けた。・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・わしのこの尊い頭に少し許りでもいまわしい思いをいたさせた事を己の頭に謝するのじゃと思えばよいのじゃ。 最後の勝を得るためなのじゃ。 謝したものが愚者じゃ負者だとは定められぬものじゃと云う言葉をわしが云い始める様にするのじゃ。 し・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・私は公に謝するのだと云った。それは美徳である。自分の行為が美徳に合うことは喜ばしくないでもないが、私はその美徳のためにのみこの挙に出づるのではない。発表した方が愉快だからである。即ち身勝手である。八 第一に指摘してくれられた・・・ 森鴎外 「不苦心談」
出典:青空文庫