・・・ 割合に土が乾いていればこそで――昨日は雨だったし――もし湿地だったら、蝮、やまかがしの警告がないまでも、うっかり一歩も入れなかったであろう。 それでもこれだけ分入るのさえ、樹の枝にも、卒都婆にも、苔の露は深かった。……旅客の指の尖・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ければ了解らない、聖書を単に道徳の書と見て其言辞は意味を為さない、聖書は旧約と新約とに分れて神の約束の書である、而して神の約束は主として来世に係わる約束である、聖書は約束附きの奨励である、慰藉である、警告である、人はイエスの山上の垂訓を称し・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・ 奇蹟が、あらわれるときは、かつて警告というようなものはなかったでしょう。そして、それは、やはり、こうした、ふだんの日にあらわれたにちがいありません。 青年は、今日もまた空想にふけりながら、沖をながめていました。ふと、その口笛は止ま・・・ 小川未明 「希望」
・・・と二三度も警告を発しておいたじゃないか。」「待ちませんはあなたの口癖ですよ。」「だれがそんな癖をつけました、わたしに。」 武は思わずクスリと笑った。「それじゃどうあっても待ってくださらんの。」「マア待ちますまい、癖になる・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・しかるに翌四月八日に平ノ左衛門尉に対面した際、日蓮はみたび、他国の来り侵すべきことを警告した。左衛門尉は「何の頃か大蒙古は寄せ候ふべき」と問うた。日蓮は「天の御気色を拝見し奉るに、以ての外に此の国を睨みさせ給ふか。今年は一定寄せぬと覚ふ」と・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ ソレ、お前の竿に何か来たよ。 警告すると、少年は慌てて向直ったが早いか敏捷に巧い機に竿を上げた。かなり重い魚であったが、引上げるとそれは大きな鮒であった。小さい畚にそれを入れて、川柳の細い枝を折取って跳出さぬように押え蔽った少年は・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・病人に逢わせてもらえるかどうか、それさえまだわかっていない、という事を北さんは私に警告したのだ。 園子のおしめ袋だけを持って、私たちは金木行の汽車に乗った。中畑さんも一緒に乗った。 刻一刻、気持が暗鬱になった。みんないい人なのだ。誰・・・ 太宰治 「故郷」
・・・ その日の午後、いまは全く呉王廟の神烏の一羽になりすまして、往来の舟の帆檣にたわむれ、折から兵士を満載した大舟が通り、仲間の烏どもは、あれは危いと逃げて、竹青もけたたましく鳴いて警告したのだけれども、魚容の神烏は何せ自由に飛翔できるのが・・・ 太宰治 「竹青」
・・・ 不幸なことには、私には、そのように親切に警告して呉れる特志家がなかった。私は、それを神の意志に依る前兆のあらわれとも気づかず、あさましい、多少、得意になって、ばかな文句を、繰り返し繰り返し、これは、プルタアクの英雄伝の中にあった文句で・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・ これに連関してまた、五位鷺や雁などが飛びながらおりおり鳴くのも、単に友を呼びかわしまた互いに警告し合うばかりでなくあるいはその反響によって地上の高さを瀬踏みするためにいくぶんか役立つのではないかと思われるし、またとんびが滑翔しながら例・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
出典:青空文庫