・・・一定の人生を見てかきながら、それにふさわしい人生の見かたがないという意味を云っている青野氏の言葉は、この一二年間所謂素人文学というものへの無責任な作家の譲歩が、今日に結果した一つの大きい文学上の問題だと思う。 或る作家たちがこの三四年来・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・それを、日本の知識人の悲運という風に主情的に語るだけでは、それ自体、その人たちも排撃している日本の文学精神の主情性であり、理性の譲歩ではなかろうか。 わたしたちは、よくよく思いおこさなければならない。かつて日本人民の運命が東條政府によっ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・も銘々が好むところを発揮して営んでゆく家庭の楽園が、空想的にまで主張されており、従来の映画の中では、破壊者の役割に廻っていたお金持ちの事業家などでもあの映画の中では、その過程の楽園の喜びと機智に負けて譲歩するハピイエンドです。あれをどんな気・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・そして、自己批判によって一層高められたレーニン的党派性の理解に立って、この決議の実践、大衆化のために努力し、同時に、わが陣営内の最も害悪ある敵、日和見主義と、いよいよ正しく、譲歩するところなく闘争することを、自身の課題とするものである。・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・押しかえし、一寸でよかったらと云われても、譲歩しない。やはり何度でも事務所でと答え、後年は、そういう習慣が世間一般にも少なくなったので、早朝のお客様との押し問答が稀れになりました。 夕刻事務所から早く帰った日には、皆でテーブルを囲んで夕・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・其故、彼女を立て、此方から、被来って下さいと云うのに、何故からりと、朗らかに、その譲歩を受けられないのだろう。 いつまでも、ぐずぐずして定らず、自分も気が抜けたような処へ、丁度、此、青山の家が見付かった。 前後して、元老の山縣公が、・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 結婚というものが、肉体の問題を根底にもっており、結婚生活の経験があり、成熟期のあなたが、ときどき会う兄の御友人に肉体からさきに譲歩しそうになっていることは、自然のようで、また自然でないと思います。 なぜなら、その人と会うようになっ・・・ 宮本百合子 「三つのばあい・未亡人はどう生きたらいいか」
・・・ 決して譲歩しない人生に対する沈着な勇気と不屈な正義への感覚とが、ヘッセの場合では外的な関係なしに、個人的な関係を時代と歴史とに向って浄化しようという観念上の願望と結び合わされているために、現実から脱出する結果を招いて、彼の生活の孤立と・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
出典:青空文庫