・・・描写は殆谷崎潤一郎氏の大幅な所を思わせる程達者だ。何でも平押しにぐいぐい押しつけて行く所がある。尤もその押して行く力が、まだ十分江口に支配され切っていない憾もない事はない。あの力が盲目力でなくなる時が来れば、それこそ江口がほんとうの江口にな・・・ 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・「この間谷崎潤一郎の『悪魔』と云う小説を読んだがね、あれは恐らく世界中で一番汚いことを書いた小説だろう。」(何箇月かたった後、僕は何かの話の次手に『悪魔』の作家に彼の言葉を話した。するとこの作家は笑いながら、無造作に僕にこう言うのだ・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・滝田君はその時僕のために谷崎潤一郎君の原稿を示し、(それは実際苦心の痕の歴々大いに僕を激励した。僕はこのために勇気を得てどうにかこうにか書き上げる事が出来た。 僕の方からはあまり滝田君を尋ねていない。いつも年末に催されるという滝田君の招・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎君」
・・・永井荷風氏や谷崎潤一郎氏もやはりそこへ通ったはずである。当時は水泳協会も芦の茂った中洲から安田の屋敷前へ移っていた。僕はそこへ二、三人の同級の友達と通って行った。清水昌彦もその一人だった。「僕は誰にもわかるまいと思って水の中でウンコをし・・・ 芥川竜之介 「追憶」
大阪は「だす」であり、京都は「どす」である。大阪から京都へ行く途中、山崎あたりへ来ると、急に気温が下って、ああ京都へはいったんだなと感ずるという意味の谷崎潤一郎氏の文章を、どこかで読んだことがあるが、大阪の「DAS」が京都・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・私はそう思ったのだ。谷崎潤一郎氏も既に十年前にこのことを言っておられる。すなわち、「東京をおもう」というエッセイの最後の章がそれだ。「……終りに臨んで、私は中央公論の読者諸君に申しあげたい。諸君は、小説家やジャーナリストの筆先に迷って徒・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・樋口一葉 にごりえ、たけくらべ有島武郎 宣言島崎藤村 春、藤村詩集野上弥生子 真知子谷崎潤一郎 春琴抄倉田百三 愛と認識との出発、父の心配 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 次兄は、この創刊号には、何も発表なさらなかったようですが、この兄は、谷崎潤一郎の初期からの愛読者でありました。それから、また、吉井勇の人柄を、とても好いていました。次兄は、酒にも強く、親分気質の豪快な心を持っていて、けれども、決して酒・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・ 久保万、吉井勇、菊池寛、里見、谷崎、芥川、みな新進作家のようであった。私はそれこそ一村童に過ぎなかったのだけれども、兄たちの文学書はこっそり全部読破していたし、また兄たちの議論を聞いて、それはちがう、など口に出しては言わなかったが腹の・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・そのころの新進作家には、武者小路とか、志賀とか、それから谷崎潤一郎、菊池寛、芥川とか、たくさんございましたが、私は、その中では志賀直哉と菊池寛の短篇小説が好きで、そのことでもまた芹川さんに、思想が貧弱だとか何とか言われて笑われましたけれど、・・・ 太宰治 「誰も知らぬ」
出典:青空文庫