・・・ 河は、海峡よりはもっと広いひろがりをもって海のように豊潤に、悠々と国境を流れている。 対岸には、搾取のない生産と、新しい社会主義社会の建設と、労働者が、自分たちのための労働を、行いうる地球上たった一つのプロレタリアートの国があった・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・友情と金銭とのあいだには、このうえなく微妙な相互作用がたえずはたらいているものらしく、彼の豊潤の状態が私にとっていくぶん魅力になっていたことも争われない。これは、ひょっとしたら、馬場と私との交際は、はじめっから旦那と家来の関係にすぎず、徹頭・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・さもなくば商才、人に倍してすぐれ、画料、稿料、ひとより図抜けて高く売りつけ、豊潤なる精進をこそすべき也。これ、しかしながら、天賦の長者のそれに比し、かならず、第二流なり。」 定理 苦しみ多ければ、それだけ、報いられる・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・近頃某氏のために揮毫した野菜類の画帖を見ると、それには従来の絵に見るような奔放なところは少しもなくて全部が大人しい謹厳な描き方で一貫している、そして線描の落着いたしかも敏感な鋭さと没骨描法の豊潤な情熱的な温かみとが巧みに織り成されて、ここに・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・で示したニュアンスにとみ曲折におどろかない豊潤な資質は、その後の諸論集のなかでどのように展開されただろうかという問題である。 片上伸研究が「過渡期の道標」と題されたことは、示唆的である。著者は、芥川龍之介の敗北の究明とともに、小市民的土・・・ 宮本百合子 「巖の花」
出典:青空文庫