・・・ 滝田君が日本の文芸に貢献する所の多かったことは僕の贅するのを待たないであろう。しかし当代の文士を挙げて滝田君の世話になったと言うならば、それは故人に佞するとも、故人に信なる言葉ではあるまい。成程僕等年少の徒は度たび滝田君に厄介をかけた・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎氏」
・・・この場合ブルジョアジーの人々が、どれだけ民衆のために貢献したかは、想像も及ばないものがある。悔い改めたブルジョアは、そのままプロレタリアの人になることができるのだ。そう、ある人は言うかもしれない。しかし、この場合における私の観察は多少一般世・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・これを要するに氏の僕に言わんとするところは、第四階級者でなくとも、その階級に同情と理解さえあれば、なんらかの意味において貢献ができるであろうに、それを拒む態度を示すのは、臆病な、安全を庶幾する心がけを暴露するものだということに帰着するようだ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ 超世的詩人をもって深く自ら任じ、常に万葉集を講じて、日本民族の思想感情における、正しき伝統を解得し継承し、よってもって現時の文明にいささか貢献するところあらんと期する身が、この醜態は情ない。たとい人に見らるるの憂いがないにせよ、余儀な・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・『帝諡考』の如き立派な大著を貢献されたのは鴎外の偉大な業績の一つである。考証家の極めて少ない、また考証の極めて幼稚な日本の学界は鴎外の巨腕に待つものが頗る多かった。鴎外が董督した改訂六国史の大成を見ないで逝ったのは鴎外の心残りでもあったろう・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・従来片商売として扱われ、作者自身さえ戯作として卑下していた小説戯曲などが文明に貢献する大なる精神的事業である事を社会に認めしめたのは全く坪内君の功労である。 坪内君はイツでも新らしい道を開く。劇の如きも今日でこそ猫も杓子も書く、生れて以・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
私は学校教育と云うものに就ては、現在の状況からすると小学校のそれに最も重きを置く。それは今日の状態にあっては大学及び其の他の専門学校と云うものは殆んど民衆にとってはこれと云う貢献がないと信ずるからである。何故かと云うに一般民衆にとって・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・ 日本の文壇というものは、一刀三拝式の心境小説的私小説の発達に数十年間の努力を集中して来たことによって、小説形式の退歩に大いなる貢献をし、近代小説の思想性から逆行することに於ては、見事な成功を収めた。 人間の努力というものは奇妙なも・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・尤も君なんかの所謂警察眼なるものから見たら、何でもそう見えるんか知らんがね、これでも君、幾らかでも国家社会の為めに貢献したいと思って、貧乏してやってるんだからね。単に食う食わぬの問題だったら、田舎へ帰って百姓するよ」 彼は斯う額をあげて・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
一 女性と信仰 男子は傷をこしらえることで人間の文明に貢献するけれども、婦人はもっと高尚なことで、すなわち傷をくくることで社会の進歩に奉仕するといった有名な哲人がある。この人間の文化の傷を繃帯するということ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
出典:青空文庫