・・・爾来諸君はこの農場を貫通する川の沿岸に堀立小屋を営み、あらゆる艱難と戦って、この土地を開拓し、ついに今日のような美しい農作地を見るに至りました。もとより開墾の初期に草分けとしてはいった数人の人は、今は一人も残ってはいませんが、その後毎年はい・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・十四箇所の貫通創を受けた。『軍曹どの、やられました!』『砲弾か小銃弾か?』『穴は大きい』『じゃア、後方にさがれ!』『かしこまりました!』て一心に僕は駆け出したんやだど倒れて夢中になった。気がついて見たら『しっかりせい、し・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・大腿の貫通銃創だ。「看護長殿、大西、なんぼ貰えます?」「踵を一寸やられた位で呉れるもんか。」「貰わにゃ引き合いません。」 負傷者は、それ/″\、自分が何項症に属するか、看護長に訊ねるのであった。何項症であるか、それによって恩・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・御手洗の屋根の四本の柱の根元を見ると、土台のコンクリートから鉄金棒が突き出ていて、それが木の根の柱の中軸に掘込んだ穴にはまるようになっており、柱の根元を横に穿った穴にボルトを差込むとそれが土台の金具を貫通して、それで柱の浮上がるのを止めると・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・ 宇宙のどこの果てからとも知れず、肉眼にも顕微鏡にも見えない微粒子のようなものが飛んで来て、それが地球上のあらゆるものを射撃し貫通しているのに、われわれ愚かなる人間は近ごろまでそういうものの存在を夢にも知らないでいたのである。その存在を・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・もしも丸の内の他の建物もだんだんに地底の第三紀層の堅固な基礎の上に樹立される日が来れば、自然に建物と建物の各層相互の交通のために地下道路が縦横に貫通するようになるかもしれない。そうなれば丸の内の地図はもはや一枚では足りなくなって地下各層の交・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・よく見ると樹の枝は鳥の胴体を貫通していて鳥はあたかも透明な物体であるように出来上がっている。津田君は別にこれに対して何とも不都合を感じていないようである。樹枝を画く時にここへ後から鳥を止まらせる用意としてあらかじめ書き残しをしておくような細・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ 十年来むし込んでおいた和本を取り出してみたら全部が虫のコロニーとなって無数のトンネルが三次元的に貫通していた。はたき集めた虫を庭へほうり出すとすずめが来て食ってしまった。書物を読んで利口になるものなら、このすずめもさだめて利口なすずめ・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・畑などどしどし宅地に売られ、広い地所をもった植木屋は新しい切り割り道を所有地に貫通させ、奥に、売地と札を立てた四角い地面を幾区画か示している。私なら、ああいう場処に住むのはいやと思った。新開地で樹木が一本もなく赭土がむき出しなばかりではない・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・一里ばかり離れた郡山の町から一直線の新道がつくられて、そのポクポク道をやって来たものはおのずから村を南北に貫通している大通りへぶつかり、その道を真っ直ぐ突切ると爪先上りの道は同じ幅で松の植込みのある、いくらか昔話の龍宮に似た三層楼の村役場の・・・ 宮本百合子 「村の三代」
出典:青空文庫